第7話

 世間一般が休日と呼んでいる、とある土曜日。


 だが、組織の人間にその休日という言葉は通用しない。全員一致の休暇を機に、対鬼人類守護機関ガーディアンの隊室にて、咲梨隊さくりたいの隊員は集まっていた。


「と、以上が先月の任務の報告だ」


 資料を手にした耀祐ようすけが締めると、テーブルの上に映し出されていた立体映像が消えて、部屋の明かりが音もなくゆっくりと点灯し、誰が触れることもなくカーテンが開かれ、昼間の眩しさが戻る。


 やがて、空間を覆っていた影の中から、5人の姿が浮かび上がった。咲梨隊の隊員達だ。それぞれが私服姿で自分の席に座っている。


 唯一の共通点は、胸元に白銀の輝きを放つバッチ。剣を振りかざす男性が描かれた、咲梨隊の証だ。そして、組織の頂点に立っている証。


「でも不思議ですね。鬼があんなにも大きな群れを作るなんて……」


 隊長の説明を聞き終えた将真しょうまが腕を組んで背もたれにもたれ掛かった。


「あんなにもあっさりと捕まったやつがやったと思うと有り得ないわ」


 真莉紗まりさは首を何度も縦に振った。要するに、賛同。


「それにしても……あの大群は凄かったですね。デーモンも、あんな風に大勢で群れて行動することがあるなんて……」


「まっ、所詮は雑魚だったけどねー」


 微量の恐怖が顔に滲む宮美みやびに対し、結庵ゆいあは余裕の態度で椅子に寄りかかる。


「確かにあんな数を目の当たりにしたら少しはビビったけどさー、実際あっさりと殺されちゃったやられちゃったからなー……。隊長はどう思います、あれを?」


「俺は、群れを作ったリーダーが他にいると思う」


「と言うことは、もっと強力な黒幕がいると?」


「俺はそう見ている」


 顎に手を当てた耀祐は、うーんと唸った。彼でさえ、あれが何だったのか、なぜあんなことが起きたのか、理解出来ない。


 、今までなかったのだから。


(一体、何が起きている?何が変わった?)


 変化したのは、常識か、世界か、はたまた自分らか。分からない、調べてみなければ。


「……ん?」


 ふと、足音が聞こえた。それは、だんだん咲梨隊の隊室に近づいてくる。


「誰でしょうね?」


 耀祐の心の中を覗いたように、将真が呟いた。


「さぁ」


 すると、扉がコンコンと2回ノックされ、声が聞こえた。


「咲梨隊の皆様、入ってもよろしいでしょうか?」


「ああ」


耀祐が頷くと、自動的に扉が開いて軍服の一人の女性が入ってくる。ショートヘヤが僅かな気流の乱れによってサラリとなびき、彼女が付けている眼鏡を撫でる。


 彼女の姿に、真っ先に反応したのは結庵だった。


「どうかしたの、弥音みおん?」


 弥音と呼ばれた女性は、彼女の方に一瞬だけ視線をチラつかせた後、再び隊員全員を見回した。


「地下の鬼の状態が安定してきたので、何か話したいことがあればどうぞ、と」


「分かった」


 耀祐は振り向いて隊員に告げる。 


「みな、行くぞ」


「「了解!」」

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