第38話 証拠隠滅? いえそんなつもりは…
「なんとなるものね…」
クイが額の汗をグイッと手の甲で拭う。
いい仕事をした汗ではない。
脂汗というものだ。
「クイ~、なんか様子がおかしいよ~、こんなトマ嫌だよ~」
どうしていいか解らないココがワタワタとクイの横で動揺している。
数分前…
腐葉土の上に袋に入ったトマの遺灰をボサッと出してみたクイ。
「………何も起こらないわ、どうしてかしら?」
「クイ~、やっぱり聞き覚えがある程度の噂話を信じちゃいけなかつたんだよ~」
「混ぜるのかしら?」
壁に立てかけてあった宿屋のスコップで腐葉土と遺灰を適当に構ってみるクイ。
ボコッ…ボコココッ…
「きた‼」
なんか腐葉土から変な音、汚ねぇ泡が膨らんでは弾け周囲に異臭を残す。
「あわわわわっ」
土が泡立つという奇妙な現象を目の当たりにしたココが落ち着きを無くす。
「ココ‼ 水よ、水を足しなさい‼」
なんとなく失敗の雰囲気を察知したクイがとっさに思いついた手段。
「えっミミズ? あっ?えっ?水? 水かけるの? 本気で?」
「調合をしくじったときは水で薄めると被害が少ないのよ‼」
なんか魔術道具って、そういう感じらしい。
凹んだバケツに水を汲みバシャッと野良犬でも追い払うかのように地面にぶちまけるココ。
ゴボボボボ…ゴブッ…
「クイ~、なんか排水溝が詰まったような音がする~」
「ココ、一応ハンカチで口を塞ぎながら離れるわよ、いい? 『いかのおすし』よ」
「イカのお寿司? アタシはタコ派だよ」
「違うわ‼ 避難訓練よ、急がない…アレ?『か』って何?」
「クイ…イカのおすしは防犯だよ『行かない』『乗らない』『大声を出す』『すぐ逃げる』『しらせる』だよ」
「そうだった? ちなみに魔導では『色は気にしない』『乾けば大丈夫』『ノリで大丈夫?』『恐れない』『すぐ逃げる』『知らないフリをする』よ」
「なんで、ひとつ疑問符が混ざってるの?」
「大方、ポジティブに捉えるが基本だけど、過去に、その場のノリで調合して大失敗で大惨事があったらしいわ」
話しつつも宿屋の壁の隅から様子を覗き見るクイとココ。
腐葉土が呼吸するようにフシューッ…フシューッ…と膨張している。
「クイ、なんか膨らんできたよ」
「破裂に気を付けなさい」
ブシューッ‼
「臭っ‼」
膨らんだ腐葉土から悪臭が漏れ出す。
「クイ…目がシパシパする」
「ワタシは喉が…あっ?」
悪臭の出所に月に照らされたシルエット。
「あっ、トマだ‼」
ココが小走りに駆け寄る。
「ココ待ちなさい‼ まだ成功とは限らないわ」
「えっ? 失敗の可能性が?」
「付き物なのよ…残念ながら…魔術とは人命の犠牲無くして完成しないものなの…悲しいけど」
「そんな…トマは?」
「犠牲になった可能性は否定できないわ…いくら水で薄めてもね」
トマのシルエットがゆっくりと歩き出す。
「クイ…こっちに来るよ」
「そうね、喰らわせる準備は出来ているわ」
「喰らわせる?」
「えぇ、所詮は土人形、炎でボワッと焼却処分よ」
「燃やすの? 火葬なの?」
そんなことを言ってる間にトマのシルエットを模したと思われる腐葉土の塊が近づいてい来る。
「クイ、アレ、こころなしかぁ…歩くの早くなってない?」
「一丁前に慣れたのか? 二足歩行に慣れたのか? 進化してます気取りか‼」
クイが両手を前に突き出す。
「ティ・バックハ・サ・カナノ・シ・ンニュ・ウヲフセグ・タメノシ・ターギー‼」
渦を巻いた炎がトマ(仮)に一直線。
バォゥン‼
一瞬でトマ(仮)は炎で包まれた。
「ぁぁあああぁぁぁ…」
「………クイ?」
「何?」
「なんか悲しそうな声だよアレ」
「声? なんか腐葉土から空気が漏れた音じゃない?」
数分後、悪臭を残し、焦げた跡だけが地面に残った…。
「なんか人型だねクイ」
「死して尚、存在を残そうという根性が浅ましいのよ、イラッとするわ」
殺人現場の痕跡を足でもみ消し、宿に戻ったクイとココ。
「トマ…なんか悪かったね…ゴメン…おやすみ」
とりあえず、疲れたので熟睡するココであった。
永眠したのか?吸血騎士トマ。
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