第32話 今宵、月の元で

「我慢するのよココ」

 嫌悪感って顔をしているココをなだめるクイ。

 そうクイには目的があるのだ。

「私の下半身…いや紳士のために…すいません…クイさん」

 獣人の上半身が頭を下げる、ほぼ土下座。

「アンタのためじゃないわよ‼」

「えっ? そうなんですか?」

「クイ…じゃあ、なにしに来たんだよ、こんな悪趣味な売春宿へ」

 魔剣ダレヤネンも、珍しく人…獣人助けしているのかと思っていた。

「そんなわけないでしょ…獣人の紳士なんかどうでもいいのよ…さぁ、オバはん…宝物庫へ案内なさい」

「クイ…強盗しにきたの?」

「そうよ‼ 冒険者の基本は他人の家から強盗することなのよ‼」

「確かに‼…確かにそうだな‼」

 魔剣ダレヤネン激しく同意。

「とんでもねぇ連中だよ…そうやって人の金で旅してるのかい? 呆れたねぇ~、人の風上にも置けねぇやね」

「人の生き血吸ってる連中に言われたくないわよ‼」

「クイ殿、目くそ鼻くそを笑うというやつですな~ハッハッハッ」

「アンタもヴァンパイアでしょうが‼」

「……面目ない…」

「…クイ…宝石とか…あるのかな?」

 古城という雰囲気に期待が膨らみ、少しだけ化け物屋敷な現実を逃避することに成功したココ。

「そうよ、きっとあるわよ‼ こんな色欲吸血鬼の根城だもん、ないわけがないじゃない‼」

 テンションが上向きに傾いたココを奮い立たせんと必死に煽るクイ。

「マジカルな感じの宝石とか?」

「あるわよ‼」

「ホント? ダレヤネンの穴にカポッとハメたら火がでるとか?」

「可能性だけは無限大‼」

 魔剣ダレヤネンは、ふと思った…俺の穴ってどこのこと言っているんだろう?

「そうですよ、ココ殿、しゃべるだけで魔剣とか? 薄すぎますよ、火くらい纏えないと魔剣とは呼べませんよ」

「おいココ、そこの吸血鬼を真っ先に灰に変えるから気合入れて探せよ…魔剣の名にかけて火くらい放ってみせるぜ俺」

「ハッハッハッ、冗談ですよ~ダレヤネン殿~」

「……俺は冗談じゃねぇから‼ レーバテイン超えしてみせっから‼」

「さぁ、無駄口叩いてないで手分けして探しましょう、金目のものはココに一旦集めるわよー‼」

 クイの生き生きとした号令で各々、ヴァンパイアの根城を勝手気ままに漁りだす。

(小娘がー…月が出たときは覚えておけよ…)

 邪魔なので柱にぶら下げられた生首だけのオバはん吸血鬼は静かに月を待つのであった。


 日も暮れた頃…。

 1階エントランスに無造作に集められた各々が選定した金目のものを吟味しているクイ。

 ダンボールにポイポイと手際よく放り込んで仕訳けていく。

「コレは私ので…コレは換金でしょ…コレは不要で…保留で…」

 ココは保留と不要の箱から魔剣ダレヤネンをレーバテインにするために、ソレっぽいヤツをカチャカチャと柄にくっ付けようと頑張っていた。

「あぁ!? えっ? 合わないな~ノリ付けしてみようかな~」

「やめろ…ココ…なんかノリがベトベトして気持ち悪い‼」

「えぇ~全然ハマらないじゃんかよ~」

「ハマるって、オマエ、どこにハメようとしてんだよ、俺にそんな場所あるか?」

「……ちょっと切れ目入れてみようかな?」

「やめれ‼ 直る保証はないから‼ 保証の対象外だから‼」


 窓から月明かりがスーッと差し込む…。

(キタッ‼ 月光バンザーイ‼)

 生首が歓喜の表情を浮かべる。

 とはいえ、生首に光が当たるまでは、まだ時間がかかりそうだ。


「あぁ…仕分けも楽じゃない…なによ魔力を帯びたモノなんて見当たらないじゃない‼」

 不要の箱に月明かりが届き…ポワッと青白い光を放つ石にココが気づく。

「なんだコレ?」

 ココがヒョイッと拾い上げると、生首が思わず声をあげた。

「あっ‼」

 クルッと生首のほうを向いたクイ。

「おいババア…アレなによ?」

「口が裂けても言えるかい‼」

 その言葉を数秒後に後悔することになる吸血鬼の生首。

「へぇ~」

 ニタッと笑うクイ。

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