第33話 交渉は上から目線で
「へぇ~」
クイが生首にゆっくりと近づく。
「何する気だい?」
「口が裂けても?」
「………」
「ココ‼ 試しに裂いてごらんなさい‼」
「えぇ~?」
あからさまに拒絶を見せるココ。
「えぇ~じゃないの‼ その石っころが、なんだか貴重なモノだということは解ったわ…問題は私達に益となるのか否か…」
「……じゃあ、こうすればいいじゃん」
ココ、石をトマの額にグイッと押し付ける。
ジュッ‼
「痛っ‼ 痛ったたたた…アタァーッ‼」
なんか石を充てた個所から肉が溶けるように崩れ落ちていく…。
「あわわわわ…」
慌てて石を放すココ。
ジーッとしばしトマの溶けた額を眺めていたクイ。
「次…獣人、前へ出なさい」
「えっ?」
「ココ、ジュッってしてみなさい」
ジュッ‼
「熱っ‼ 熱っつつつつ…ニャァーッ‼」
上半身だけで転げまわる猫の獣人。
「フフフッ…そういう石か…聞いたことがあるわ、アンデットに効果絶大のアイテムってことね…」
クイのツリ目がキューッと細くなる。
「ココ…ジュッってしてあげなさい」
「おやめ…それは…それだけは‼」
ジュッ…
………
ココのしつこいジュッによる効果でグズグズと崩れていく顔面。
「クイ…触りたくないくらいドロドロになった」
ゾンビが美人に見えるほどにドロドロに溶かされた生首。
もう性別すら解らない。
「お…や…め…言うこ…と…聞く…から…」
「それでも生きてるあたりがスゲェな…吸血鬼、ハイリスク・ハイリターンな生き様だよな」
不思議生命体である魔剣ダレヤネンも呆れる驚愕の生命力。
驚異のタフネスが『ライカン』なら、異質の不死が『ヴァンパイア』なのである。
こんな溶けた首だけからでも月明かりに照らされ続ければ回復するというのだから…ビックリである。
一説には灰からでも蘇る強者もいるとか、いないとか?
「アンデットに効果絶大か~ライカンには意味なさそうね~」
しばし石を摘まんでクルクルと月明かりにかざしていたクイ。
「ココ、ちょっとダレヤネンを貸して頂戴」
「いいよ」
魔剣ダレヤネンをポイッとクイに放り投げるココ。
(なんだろうな…この扱い)
改めて手にすると、相も変わらず魔剣らしく禍々しい色を発している。
「おい、クイ、早くココに返せよ…そのうち魂吸い取るぜ、俺の意思とは無関係にな」
所有者以外が手にすると魂を喰らい尽くすという魔剣。
ただ喋るだけでは魔剣は名乗れない。
「う~ん…どっかにカポッとハマらないかしらね~」
「クイ…なに? カポッ?」
魔剣ダレヤネン、一応聞いてみた。
「喋るだけじゃ芸が無いしね、なんかゾンビバスター的な剣にならないものかとね」
「オマエ、俺は喋るだけじゃねぇんだぜ、ソウルイーターという立派な特性が付与されている、それはそれは魔剣の名に恥じぬ伝説の剣らしいぜ‼」
「そんな吸っては吐いてだけなら深呼吸と一緒じゃない‼」
「オマエ‼ 深呼吸で亜人の群れを一掃しちゃうんだぞ、そんな深呼吸できる剣あるか? 俺だけだろ?しかも所有者特典で一切の弊害無しの人畜無害な魔剣だぞ‼」
「ソレはココの特性みたいなもんじゃない? アンタ、今、アタシの魂吸うとか言ってたじゃない? えっ? アンタ斬った相手の魂吸うだけじゃないの? なんか聞いてた話と違くない?」
「……小娘…このまま…見逃し…て、くれれば…いいものを、やろう」
オバはんの首が息も絶え絶えにクイに話しかける。
「あらっ、まだ生きてんの? 交換条件が出せる立場なのかしら?」
「クイ、ジュッする?」
ココがクイに尋ねる。暇なのだ。そしてジュッいう音が気に入ったのだ。
「その…剣に…ピッタリの…鞘をくれてやる…だから…この城から立ち去れ」
「あん?」
クイが生首を睨む。
「去って…くら…ください…マジで…」
生首の懇願を聞くだけは聞いてみようと思ったクイであった。
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