第30話 大概のものは燃やせばいい

「いくわよ~‼」

 クイ、スク水オバはんの生首を足で抑えつけたまま詠唱に入る。

 本来、呪文の詠唱に入る場合、周囲のことなど、ど~でもよくなるほどの集中力を必要とするのだが、クイ鼻歌交じりでも呪文を唱えられる天才肌なのである。

「ハーミー・デ・タケニス~ラ・カワイ・サヲカンジ・ルナ・ラ・ソレハ・モウア~イィィィー‼」

 ゴボッンッ‼

 前に突き出した右手から黒炎が吹き出し、スク水オバはんの身体を一瞬で覆い尽くす。

 踊るように暴れる黒い炎がオバはんの身体を消し炭へ変えていく。

「ウンギャァァァー、アタシのBODYがー‼」

 熱が生首の方へ伝わっているかどうか解らないが、オバはんの生首が吠える。

「アッハッハッハー‼ 骨も残らぬほどのウェルダ~ン‼ ギャッハッハッ」

 前代未聞の前衛いらずアタッカー型ウィザード、それが『クイ・コムト・グモーデル』魔力放出中はアッパー系が完全にキマっている感じとなる。

 ゲラゲラと笑っている間に黒い炎はオバはんの身体を食い尽くし消えた。

「あ~っ…吸血鬼って身体無くても大丈夫なんだね~ビックリ」

 ココが吠える生首を繁々と見て驚いている。

「そうだな…まぁ、ソコに下半身が無くても飯を食う奴がいるんだ、驚くこたぁない」

 魔剣ダレヤネン、スクッと自立している。

「はぁ~、トマもそうなのかな~」

 ココがトマの方に視線を移す。

「試してみるか?」

 魔剣ダレヤネン、やりかねない禍々しいオーラを醸し出す。

「いや…勘弁…」

 トマ、低姿勢でお断りである。


「さて…どうしてくれようかしら?」

 クイ、足でグリグリと生首を転がしている。

「痛たたたっ…いや痛くはないけど…痛い気がするー‼」

「アンデッドってすげぇな~、おいトマ、オマエも、あぁなんだぜ」

「目の前の出来事を受け止められない…直視できない」

 項垂れるトマ。

「ないないばっかでキリがな~い、アッハハハ」

 ココ楽しそうである。

「そうなっては、もう怖くないぞ、さぁ僕の下半身を返してもらおうか‼」

 腕が残っているせいか生首に対して上手にでる獣人。

「弱小貴族並の紳士のくせに生意気な~‼ アタシだって馬の獣人のほうが良かったわよ‼」

「馬の獣人? そんなのもいるのクイ?」

「……さぁ~…考えたくもないけど…猫がいるから…いるかもね」

「馬か~……会いたくはないかな~」

 ココが、どんな姿を想像したか知らないが、まぁロクなフォルムでは無かったのだろう。

「そうよね~、馬ってさぁカッコいいみたいなイメージあるけど、よく見りゃキモイわよね~、顔も歯も目も…馬面って悪口だしね」

 クイもロクな想像をしていない。

「オッホッホ、バカね…小娘2人…大馬鹿ね、馬は凄いのよ大きさも~、量も‼」

 生首の方もロクな想像しちゃいねぇ…想像の向いているベクトルが大きく反れている。

「最もだ‼」

 魔剣ダレヤネン、生首に激しく同意。

「クイ~、アタシ、やっぱ、このオバはん嫌いだ~」

 ココも強制的にベクトルを変更させられ嫌悪感を抱く。

「うん、私も…燃やす?」

 ギロッと降んずけている生首を睨むクイ。

「いや、燃やす前に、僕の下半身の在りかを聞き出してください‼」

「知ったことじゃねぇんだよ~、猫型獣人の下半身だか紳士だかのことなんざよぉ~お、お~ぅ‼」

 凄むクイの吊り目が更に吊り上がる。

「トマ…シチューおかわり」

 皆に忘れられているトマ、ココだけは忘れてなかった。

「はい…ココ殿」

 シチューを温めなおすトマであった。






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