第27話 真夜中のキノコ狩り

 ジーッ…

 夕暮れが過ぎようやく寝袋のジッパーを空けたトマ。

 ちなみに誰も構う気はないので寝袋は裏返しに使用している。

 中から開け閉め可能なのである。

「外の空気が美味い」

「死体なのに息するの?」

「……そうなんでしょうか? 気分だけかもしれません」

「きっとそうだよ、気のせいだよアッハッハ」

「そちらの御仁はヴァンパイアなんですね」

「そうだよ、昨日からだよね~トマ」

「面目ない…ココ殿」

「面目なくていいから食事の用意‼ 急ぐ‼」

「はい‼」

 クイの命令で夕食の準備に取り掛かるトマ。

「おなかすいたねクイ」

「アンタ…この状況で?」

「ココ…このパンチの効いた上半身を前に腹がすくとか? 神経疑うぜ」

「おなかはすくよ…お昼、ロクに食べてないし…アタシ、肉が食べたい‼」

「ハッハッハ、肝の座ったお嬢さんだ、ハッハッハ」

 まさかの肉を所望するココに上半身も爆笑である。

「で? アンタの下半身を持ち逃げた淫乱女は何処にいるの?」

「僕の紳士を持ち逃げしたあの女は…何処にいるのやら?」

「変態の次は痴女か…難儀な旅だな…」

 魔剣ダレヤネン、目があれば遠い目をしていたに違いない。

「よかったねトマ、下半身をもっていかれないで」

 ココの何気ない一言でクイがハッと気づく。

「そうか‼ 探さなくてもいいんじゃない?」

「……そういうことか…そうかもしれん」

 クイに続き魔剣ダレヤネンも何かに気づいた。


「トマ‼ 食事の用意が終わったら、目立つところで横になってなさい‼」

 クイの指示に理解が無いトマ。

「???」

 である。

「トマ、今日の御飯なに?」

「ココ殿が肉というので、干し肉を戻したシチューを作っているのだが…なんでだろう? 味がよくわからない…」

「それはアンタ、アレよ、ほらっ、ヴァンパイアだから、シチューとか食べないからアンタ」

 クイ言葉を選ぼうとしたが、まぁまぁ無理だった。

「おいトマ、そこら辺の動物の血吸ってみ、試しに、美味いかもな」

 魔剣ダレヤネンの言葉に足元でウロウロと、おこぼれを待つ小動物を見るトマ。

「いやいやいや……いやいやいや…でも?」

 思わずジーッとネズミと見つめ合うトマ。

「おなかすくと辛いよね、アタシも切なくなってくる」

「その衝動に逆らう必要はないのよ…騎士さん」

 誰も気づかなかった、トマの前に立っている、やっすいスクール水着を着た三十路の女性。

 ビクッとはしたものの、紳士を振り回すアレよりマシであったせいかクイがズイッと前に出て一言。

「そこの上半身から聞いているかしら?」

「聞いているわ、アンタが夜な夜なキノコ狩りしているってことよね」

「オーッホッホ…そうよ城中を、色んなキノコがブラブラ・ギンギンとウロウロしているのよ…趣味なの」

「キノコシチューなの~? トマぁ~肉は~?」

「ココ‼ 次チューは一回忘れなさい‼」

「えっ? なぜに? このオバはんのせい? ……おばさん誰?」

「スゥィートテンダイヤモンド並に永遠の輝きを約束されたアタクシ…」

「コスレテアおばさん」

「なぜ名前を? 美人で有名だからかしら? そうね、それしかないわね」

「名札…書いてある…コスレテアって…」

「……ん? そうね…そうだったわね」

「あの弟に、この姉か…致し方ない…」

 魔剣ダレヤネン、納得の姉弟。

「まぁいいわ…じゃあ貰うわよ、その吸血鬼のキノコを‼」

 スクール水着おばさんの爪がギュンッと伸びる。

「キノコシチューは渡さない‼」

 ココ、シチューを守るため魔剣ダレヤネンを構えた。

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