第26話 猫好きに理屈は通用しない

「無視よ‼ ココ‼ アレは飼っちゃダメなヤツ‼」

「えぇ~、ちょっと面白かったのに~」

「名残惜しそうな顔すんじゃねぇよ…あんなの…自分で動けねぇぶんトマより手がかかるぜ」

「まったくですな」


 立ち去ろうとするココの後を、すげー勢いで追いかけてくる上半身。

「いやぁぁぁー‼」

 草むらでバタフライ泳法のように動く上半身に生理的嫌悪を抱くクイ。

「アッハッハッハハ、バタバタしてるー追いかけてくるー」

 なんか楽しくなっているココ。

「もう面倒くせぇから斬るか?」

「話だけでも‼ 15分ください‼ 僕の下半身を取り戻してください‼」

「えっ? 取り戻す? 誰から?」

 ココが食いつく。

「やめなさい‼ 男の下半身を捥いでいくような奴、ロクな者じゃないわよ‼ココ‼」

「あ~?」

 ココが昨夜のことを思い出す。

「そだね…」

 思い出したようだ。

「身体さえ戻れば、必ず恩返しはいたします…何卒…なにとぞー‼」

「話くらい聞いてあげてはどうでしょう? 私も同じアンデットとして放っておけないのですが…」

「アンデットじゃないですから‼」

 ソコは全否定してくる上半身。

「アンタねぇ、得体のしれないアンタに協力とか? 在りえないでしょ?」

「まずは…話を聞いてください‼」

「オマエ…恩返しって言ったなぁ? 助けたら何してくれるの?」

 魔剣ダレヤネン、少し心が傾きかけている。

 人ならざる者繋がりの同情かもしれない。

「私は…獣人です」

「獣人?」

 クイが顔をしかめる。

 そう昨夜の狼男を思い出したのだ。

「アンタ…まさか…昨夜のワンコロじゃないでしょうね~?」

「昨夜の? いえワンコロ…私は犬じゃありません‼ 猫です…いやトラです」

「ワータイガー…か…」

 魔剣ダレヤネンが呟く。

「ワ~タイガ~…なに?」

「虎男よ、昨夜の仲間みたいなもんよココ、分かった? 飼えないのよ‼」

「猫は飼っちゃダメだって…じゃあねバイバイ」

「見れば、訳アリ旅とお見受けします…私は必ずお役にたてます。考えてみてください、獣人を手なずけるなどヴァンパイアクラスでないと難しいですよ」

「そのヴァンパイアに昨夜、酷い目にあってんのよ‼ 思い出したくもない‼」

「ヴァンパイアに? そのヴァンパイアとは…美人だけど時代に置いて行かれた感じの女性では?」

「…違うよ…ムキッとした変態だよ」

「人違いか…」

「いや…その美人だけど時代に取り残された感じの…心当たりがあります」

「え~思い違いじゃないの~トマ?」

「…そんなわけないでしょ…ヴァンパイアなんて、そう数は多くないわ…トマをヴァンパイア化させた女で間違いないわよ」

「なるほど…女が男の下半身を持ち去る…そういうことだな‼」

「どういうこと?ダレヤネン」

「ココ…そこはスルーして」

「どうやら所縁があるようですな? 話を聞いていただけますね?」

 上半身が身を乗り出す。

「聞こうではありませんか‼」

 トマだけが即答した。

「いや…できれば関わりたくないわ」

「同感だ、面倒だ」

 クイとダレヤネンも即答である。

「あのね…アタシ猫好きだよ」

「ですよね~」

 上半身ニッコニコである。

 ココの一言で聞くだけ聞くことになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る