第13話 騎士団長トマ・トアッカイの覚醒
なんとなく自分の居場所を見失っていたトマ、なぜか盗賊に付いてきてしまった。
「割と普通の家に住んでいるのだな」
「当たり前だろ、盗賊が盗賊ですって家に住むわけねぇだろバカかオマエ」
言われてみれば最もである。
「泥棒の顔をした泥棒はいないということか…」
「まぁ適当に寛いでいてくれ、俺はオマエさんに渡す本を持ってくるからよ」
「あぁ…すまない……本?」
トマの疑問に答えることはせず盗賊は隣の部屋に入っていってしまった。
「盗賊…っぽい顔してるけどな~アイツ」
待つこと数分
「あった、あったコレだ」
盗賊がトマにポンッと本を投げてよこした。
「コレが…なんだ?」
『カーンサ・イ訛りでツッコミますねん』
本のタイトルである。
「俺はもう独立したからよ、もう必要ねぇんだ」
盗賊は遠い目をして語りだした。お茶も出さずに…。
「あれは…俺が盗賊団に所属していた頃……」
若き日の駆け出し盗賊見習い時代、盗賊団において居場所を見いだせなかった男は、偶然、盗みに入った貴族の屋敷でこの本に出合った。
何気に手に取り読み始め…気づいたら朝を迎え、めでたく御用となったわけだが、何も盗んでなかったことで軽い罪で済んだそうだ。
「その貴族はよう…俺にこう言ったのさ」
「この本を読み、自分の居場所を見つけるのです、そして善の人になるのですよ」
牢屋で何度も読み返した。
「そして俺は一度は盗賊団に戻ったが、すっかり自信が付いちまってよ、足を洗い…今じゃ戦場荒らしになったわけだ」
「ソレは…更正というのか?」
「死体に武器も鎧もいらねぇ、リサイクル稼業だ」
「ソレと、この本にどういう関係があるんだ?」
「だからよ‼ この本のおかげで、自分に個性が産まれたんだ‼ 群れの中で生きるにしても、個性って大事なんだぜ」
一晩、泊まることになり翌朝、トマはココ達の元へ戻った。
「どこ行ってたのよ‼」
怒鳴るクイ。
「あっトマ帰ってきた、とりあえず朝ごはん作って」
ココが空になった鍋を指さす。
「あっ…あぁ」
川で鍋を洗って野草を取り、リザードマンの干し肉と一緒に硬いパンに挟む。
慣れたものだ。
朝食の後、キャンプを畳んで『ぺの国』を目指し旅立つ御一行。
昼過ぎにココが古い迷宮を見つけてしまった。
「やったダンジョンだよ‼」
「そうだな、入ってみるか‼」
「そだね‼」
「バカじゃない‼ わざわざ迷子になりに行くの?」
「迷宮って見逃せない‼ お約束だもん」
「そうだな‼ いい武器が手に入るかもしれねぇしな」
「アンタが武器でしょうが‼」
「クイ、武器はともかく、ほらっ迷宮って言えばミノタウロスだよ‼ 牛肉だよ‼」
「おぉ~そうだな、ゴブリンは豚肉だもんな、牛もいいな」
「アンタは食えないでしょ‼」
「アタシは食べたいよ‼ 牛肉‼ 牛肉‼」
ココがズカズカとダンジョンへ入っていく。
当然。背負われた魔剣も同行である。
「あぁもう…」
クイが渋々、後に続いた。
無言で最後尾を歩くトマ。
ほどなくして…
「ぶもぉぉぉおぉー‼」
なぜか鼻に輪を付けた牛頭人体のミノタウロスが、お約束で現れる。
「ほらっ、ねっねっ‼ いたでしょ」
はしゃぐココ。
「いたな~、じゃあ行くかー‼」
魔剣ダレヤネンが鞘から抜かれミノタウロスの首を薙ぎ払う。
「牛肉‼ 牛肉♪」
「ココ…肉は…人なんだけど…」
クイが胴体を指さす。
「そだね~」
「なんでやねん‼」
ダンジョンにトマのツッコミが木霊した。
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