第12話 騎士団長トマ・トアッカイの消失
「戦力外…」
呟いたトマに立て続けにクイが畳みかけてくる。
「そうね…フォーメーション的な戦術なら遠方から魔法でドカーンの後、近接でトドメを刺せば問題ないわよ…アンタ…いらなくない?」
被せるようにココの一言。
「さっきの戦いのとき…トマ居た?」
すでに呼び捨て。
「まぁ、戦闘は任せておいてくれてもいいけどな俺は別に」
他人の魔剣にまで言われる始末の騎士団長トマ。
「私は…私は…無能だったのかー‼」
夕暮れの朱に染まる空に向かって叫ぶトマ。
「無能? そんなことないわよ、とりあえず夕食の準備は任せたわ騎士団長様」
クイが意地悪く言い放つ。
「そうだよ、トマの作るリザードマンの燻製は美味しいよ、元気だして」
ココに悪意はない。
「そうだな、見事な剣さばきだと思うぞ、リザードマンの肉を切るときだけは」
魔剣ダレヤネンには明確な悪意がある。
「肉を…切るよ…」
トボトボと死体の山に向かって歩くトマ。
無駄に派手な鎧が痛々しい。
「オークの肉は臭くて食えないから…おっゴブリンもいるぞ、ラッキー」
そんなことに喜びを感じる自分が情けない。
ゴブリン鍋の準備をテキパキと熟し、リザードマンの燻製を作るトマ。
「美味い、新鮮なゴブリンは格別だね」
ココ大満足である。
「そうだなゴブリンは煮ても焼いても美味い…俺には関係ないが」
魔剣ソウルイーター、生きている者の生気を吸い取り魔力に変える食事とは無縁である。
「たっぷり吸った? アンタ、魔力が枯渇したら、ただの剣なのよ…不細工なだけのね」
「不細工ってなんだ‼」
魔剣ソウルイーター、ビジュアル的な視点で考えると実に魔剣らしいフォルムをしている。
「アタシはカッコいいと思うけどな~、なんか紫のオーラでるし」
所有者ココが気に入っているならOKである。
「まぁ主観の相違ね」
そんな夕食中の会話の最中、ひっそりと誰も気づかないまま騎士団長トマ・トアッカイは焚火から離れていった。
あえてコソコソと離れたわけではない。
元々、存在感が薄いのだ。
「身に付けねば…私だけの…ナニカを…」
焚火から遠ざかり、野犬やら野鳥が集る死体の山の前でトマは月を眺めていた。
「騎士様が、こんなところでなにを?」
戦場の跡地で残骸を漁る盗賊がトマに声を掛けた。
「失せろ…ゴミ漁り風情が‼」
「ゴミ漁りとは聞き捨てならねぇな~さっきの戦い見てたぜ~リザードマン2匹がやっとの騎士不在が偉そうにギャハハハハ」
髭面の小柄な盗賊が下品な笑い声をあげる。
「クッ‼」
言い返すこともできないトマ。
「あの娘達…バケモノだな…なんでアンタみたいのが、くっ付いている?」
「私は王の命に従い…警護を…」
「ギャハハ警護? あんなバケモノに護りなんか必要か? アンタ厄介払いされたんじゃねぇのか?」
「王は、そんな人ではない‼」
トマが思わず剣に手を掛ける。
「おいおい…抜いたら最後、俺も本気で相手しなきゃならなくなるんだぜ…アンタの鎧は高く売れそうだしな~」
悔しいが、トマよりも小柄な盗賊の方が腕は立ちそうである。
「ついてきなよ…教えてやるぜ、本当のアンタってヤツをさぁ~ギャハハハ」
「本当の俺?」
その夜、トマは姿を消した。
ココ達が、そのことに気づいたのは朝食のときであった。
「トマ~おなかすいた~……ん?トマは?」
「さぁ?」
「しょんべんじゃね?」
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