第7話 ある日、森の中

『うぉぉぉぉー‼ 俺は殺るぜー‼ 殺ってやるぜー‼』

 ココの背中で吠える魔剣『ソウル・イーター』

 鞘に収まっているせいで多少の消音効果はあるものの、振動及びエコーがココをイラだたせる。

「カタカタ、ガタガタうっさいわよ‼」

 いきり立つ魔剣『ソウル・イーター』生者の魂を宿し、人知を超えた魔力を放つ無双の剣である。

 現在は肉体ごとの転生に大失敗し、魂だけの状態でJCの肉体で眠っていた『ぺの国』無敗の騎士団長『ダレヤネン・ソーレ』の魂が宿っている。

 良く寝たせいで、むやみに元気である。

 その肉体の持ち主である細長い少女『ココ・ドコデスノン』少なからず放り込まれた魂の影響を受けていたと思われるが、学園で『ココ・ザ・バーバリアン』の異名を頂くほどの強者である。

 両親との怒涛の別れ、王宮で見送られて早2日。

「ココ殿‼ 道に迷ったようですな‼」

『ナの国』騎士団長『トマ・トアッカイ』が言わなくてもいいことを大声で確認する。

「アンタも、うっさいのよ‼」

 沼から沸き立つリザードマンを斬っては焼き、斬っては焼き、爬虫類のステーキと干し肉は食い飽きた頃である。

「パフェ的なものが食べたいーーー‼」

 糖分を欲する14歳が、薄暗い森の中で叫ぶ。

「ココ殿、森の中で生クリームはないと思いますぞ」

「そうだバカ娘、何がパフェだ、戦士ってのはなぁ、肉だけ食ってりゃいいんだ、食った肉の枚数だけ強くなるんだ」

「うっさいわよ、トカゲの硬い肉なんて、たまにはいいか?的なポジの肉なのよ‼ 毎日食うもんじゃないのよ‼ 塩と胡椒しかないし飽きたのよ‼ 甘いものが食べたいのよー‼」

 ヒクッ…

 ココの鼻が、何かを嗅ぎつけた。

「甘い匂い…がする…間違いない‼」

 鼻をヒクヒクさせてココが走り出す。

「娘…オマエは犬か? 俺には何にも臭わねぇが」

「鼻が無いからよバカ魔剣‼」

「なるほど…ダレヤネン殿は剣ですからな、ハッハハハ飯はいりませんものな~」

「不思議と腹は減らねぇ」

「減るわけないでしょ剣なんだから」

「ソレは違いますぞココ殿、ソウル・イーターは斬った者の魂を喰らうのです、食っているのですぞ」

「ソレでジュワァァァとか鳴るんだアンタ」

「そうだったのか…知らんかった」


 ほわぁぁあ~ん…

 甘い匂いが急に強くなった。

「雰囲気が変わりましたな…ココ殿、気を付けなさいませ」

 トマが腰の剣に手を伸ばす。

 この森に似つかわしくない日当たりのよい丘のうえ。

 絵に描いたような平和そうな一軒家が建っている。

「罠だな…娘、警戒しろよ‼ ってオイ‼」

 ダレヤネンの心配を他所にココはケーキを食っていた。

「えっ? 罠なのコレ……んがっ‼」

 家の外に設置されていたレジャーシートの上に並べられたスィーツ。

 食うなと言うのが遅かった。

 そして…食ったココ、急激に意識が遠のいていくのである。

「なるほど…罠だわ…コレ…」

「バカ娘が‼ 拾い食いとかする? 若い娘が拾い食いとかするの‼」

 背中のダレヤネンがアンビリバボーといった呆れた声をあげる。

「おぉ…ココ殿、食べてしまわれるとは何事か…」

 トマが天を仰ぐ。

 意識を失って寝息をたてて、ひっくり返った拾い食いJCココ。


 その様子を窓から伺っていた老婆がケヒヒと笑う。

「ホントに引っかかるものなのですね~、ヘガ御婆様」

「ケヒヒ…ワシも驚いておるよ…クイよく見るがいい、あの娘が器じゃ…ケヒヒ」

「迷わずクスリ入りケーキを拾い食いした、あの子が『聖杯』なのですか…不安…」

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