残照

@touka0920

残照

ある寺で住職がお経を唱えていたら、廊下から誰かの足音が聞こえてきた。

急ぎ足で住職の元へとやってきたのは、この寺で一番若い弟子であった。


「和尚さま、和尚さま、次はわたしの番のようです!本当に、伝え聞いていたとおりでした。昨晩、こんな夢を見たのです。

わたしが森の中を歩いていると、大きな黄色い背中が見えてきました。

最初わたしは、恐くて言葉が出ませんでした。しかし、その者がわたしに気づき、こちらを振り返りました。その者は、数珠のようなものを持っていました。とても大切なもののようでしたが、それをわたしに託しました。その瞬間に目が覚めたのです。そして、手を見ると、その数珠があったのです。」

弟子は、目を輝かせてそう話すと、その小さな両手で数珠を広げて見せた。


「そうか、そうか。それはめでたいことじゃ。」

熱心に耳を傾けていた住職は、その優しい眼差しで弟子の目を見つめ、こう続けた。

「わしも古き書物でしか読んだことはないが、その手にあるものは心玉というものだろう。それは、代々受け継いできた者の人生、つまり心からできている。心玉を手にした者の務めは、旅をすることだ。旅をして、自らの運命を見つけ、実現することだ。しかし、お前ははまだ幼い。あと5年修行を積んでから、ここを出るわけにはいかんかね。」

住職は知っていた。それが無理だということを。そして、弟子もそれを十分に分かっていることを。

心玉を手にした者は、すぐに旅に出なければならないのだ。


弟子は、住職の優しさに微笑んだ。

答える代わりに、ひとつの質問をした。

「なぜ、このようにたくさんの色があるのですか?」

数珠の一粒一粒は、この世のものとは思えないほど、豊かな色彩に溢れ、ひとつとして、同じ色は無かった。

「誰として同じ運命を持つ者はいない。それゆえ、誰として同じ人生の者はいない。さあ、行きなさい。」

住職は、その大きな手を、弟子の小さな頭に置いた。


弟子が身支度をしている間、住職は一心に手を合わせていた。

「あの子が、この先いつまでも、健康で、幸せな人生が送れますように。

どうかご加護を。」


住職が一心に手を合わせている間、弟子は身支度をしながら、こんなことを考えていた。

「これから自分には何が待っているのだろうか。こんな気持ちは初めてだ。喜びと不安が入り混じった、不思議な気持ちだ。」


弟子の身支度はすぐに終わった。

寺の門を挟み、住職と弟子は最後の言葉を交わした。

弟子は、慣れ親しんだ寺に背を向け、これから進む道に目を向けた。

そして、その白くて長い耳をなびかせながら、一歩一歩、進んでいった。



さて、今年はどんな一年になるのでしょうか?



*******************************

春は立った。道は待たない。先に進まなければならない。

この出来事を悲劇と捉えるか。冒険と捉えるか。

それは、あなた自身で決められる。

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