第26話 言いがかり


 入学式が終わって、それぞれクラス分けが発表される。俺は祈った。あのアルトと同じクラスにだけはなりませんように……。と。

 エゴイスティック・ファンタジーはストーリーが何重にも分岐する自由度の高いゲームだ。だから、エルドとアルトが同じクラスになることもあれば、ならないこともある。そこはまあ、俺の運しだいだな。


「まじかよ……」


 クラス分けの結果、俺は見事アルトと同じクラスになってしまった。

 しかも、そのほかにもちらほらと主人公側のヒロインの名前が見える。

 さようなら、俺の学園生活……。

 これはもしや破滅フラグまったなしなのでは……????

 

 いやまて、別にアルトに変なかかわり方をしなければいいんだ。

 俺がアルトにちょっかいかけたりして、ヘイトを買わなければいい。

 そもそも今の俺は闇魔法とかも使えないし、ボスキャラになりようがないんだ。

 俺はただちょっと回復魔法が得意なそのへんのモブを演じればいい。


 そう大人しくしようと思っていた矢先。

 俺に変な言いがかりをつけてくるやつが現れた。


「おい、お前。エルド・シュマーケンとかいったな」

「え、なに……?」


 俺に声をかけてきたやつの顔を見ると、そいつは俺のよく知る相手だった。

 エゴイスティック・ファンタジーにヒロインとして登場する人物。

 名前はたしか、ミレイ・アッシュゴールドとかっていったっけ。

 ミレイは気の強いキャラで、アルトと一緒に俺を追い詰めることになるキャラだ。

 できればこいつにも関わりたくはないのだが……。


「入学式でのことだ。なんだあのレベル9999とかいうでたらめは! 貴様、なにか不正を働いたのだろう! そんなことは、この私が絶対にみとめない!」

「えぇ……なにもしてないんだが……」


 まさかまさかの言いがかりだ。

 でもまあ確かに、信じられないよな……レベル9999なんて。

 エゴイスティック・ファンタジーにボスとして出てきたエルドでさえ、7000レベルくらいだったはずだ。

 今の俺はそれをはるかに凌駕するレベル……。信じろというほうが無理な話だ。

 ミレイは正義感の強い人物で、こういった不正を絶対に許さない。

 いや、俺は不正なんかしていないんだけどな。

 ここはきっぱりと否定しよう。だって、俺やってないんだもん。

 

「俺はなにもしていない。言いがかりはやめてもらおうか」

「嘘をつけ! 貴様、商人の家系のくせに」


 ミレイは俺を見下したようにそう言った。そういうことか……。

 ハインリヒ貴族学園は、たくさんの貴族が集まる学園だ。

 貴族っていうのは、いろいろ階級がある。その中でも、商人の家系というのは、見下されているのだ。貴族であることには違いないが、やはり商売をやっているというので、差別されてる。

 貴族の中で位が高いのは、騎士とか王族だな。

 商人はいわば名誉貴族とまで言われている。

 まあ、表立ってそんな差別をするようなやつは少ない。だけど、ここは学校だ。まだ分別のつかない子供もいるし、それに学校ってのは差別がつきものだ。


「しかも、その顔つき……。悪者が染みついているような邪悪な顔だ。お前、なにかやったに違いない!」

「えぇ……」


 たしかにまあ、エルドの顔つきは悪人ヅラだが……。そこまでいうことないだろ……。

 エルドの顔は、6歳のころから悪人が染みついているような顔だ。だけど自分では結構イケメンなところもあると思って、気に入ってたのに。

 俺がぐうの音も出ないでいると……。

 アーデが反論を切り返した。


「エルド様は決して不正なんかしていません! 撤回してください!」

「アーデ……」


 急に奴隷が口をきいたので、ミレイはそれを心底驚いた顔で見つめた。そしてアーデを見下したような目つきで、


「ふん、奴隷の分際で! 主人をかばいたい気持ちはわかるが、生意気だ!」

「エルド様は本当にレベル9999にふさわしいだけの経験の持ち主です! エルド様はこうみえて、回復魔法のエキスパートなんですよ!? 疑うのなら、この場で私の腕を切り落として、治療をお見せしましょうか?」


 アーデはそこまで言って俺をかばってくれる。なんて忠誠心のあふれる奴隷なんだ……。

 だが、アーデの必死の訴えも、ミレイには逆効果だったようだ。

 

「なに? こんな悪人ヅラの男が、回復魔法のエキスパートだと? 寝言は寝ていえ。ますます怪しいやつめ……。貴族学園に邪悪な奴隷商人はいらない……!」


 なんか急に俺、邪悪認定されたんですけど……。まさかこのまま破滅フラグまっしぐら……?

 くそ、目立たないようにしようと思ってたのに、入学式のせいで、厄介なのに目を付けられてしまったな。

 俺たちが教室でそう言いあっていると、

 またこちらに近づいてきて声をかけてくるものがあった。


「なんだか騒がしいですね。なにがあったんですか?」

「姫様……」


 ミレイが姫様と呼んだ人物――彼女もまた、エゴイスティック・ファンタジーに登場するヒロインの一人だった。

 名を、クレア・グランローズ。グランローズ王家の、正真正銘の姫様だ。いちおう、王族も貴族ってことで、何人かこの学園に通っている。

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