第27話 決闘
「騒がしいですね」
「姫様」
姫様と呼ばれたのは、クレア・グランローズ。ピンク色の髪の毛をクルクル縦ロールに巻いた、いかにもといったお姫様って感じだ。
ミレイはクレアに事情を説明した。俺がレベル測定器になにかしたんじゃないかという疑いがあるとかなんとか。
「なるほど、確かにレベル9999と言うのは不可解ですね。彼が不正を働き、学園の品位を落とした可能性は十分にあります」
「そうでしょう」
くそ、姫様まで俺を疑うのか? もしかしてゲーム登場人物だけ、俺に対しての好感度に補正入ってない?
主人公補正ならぬ、悪役補正。俺はどう転んでも言いがかりをつけられて、悪者にされてしまうのだろうか。
「だったら、ハインリヒ貴族学園の生徒らしく、決闘をするというのはどうでしょう? ミレイさんと、そちらのエルドさんが決闘をし、勝ったほうが正しいということで。もし本当に彼がレベル9999なのでしたら、まさか負けるわけはないでしょう」
などと、姫様は勝手なことを言い出した。ミレイはそれに乗っかって、
「おお! さすがは姫様。その通りですね。よし、貴様! 今すぐ決闘だ! 決闘場に移動するぞ」
「えぇ……」
ということで、俺はミレイと決闘をすることになってしまった。
幸い? アルトは教室にいないみたいで、今回のことには絡んでこなかった。ここであいつまで出てきたらさらに厄介極まりないからな……。
しかし、ミレイと決闘か。たしかこいつは、そこまでレベルは高くなかったはずだ。だとすれば、俺はかなり手加減をしないとな……。
たしか、新入生のほとんどがレベル1から100の間にいたはずだ。
だが、ここは身の潔白を証明するためにも、一応勝たなければ……。いやむしろ俺のレベルが間違いだったということにすれば、面倒は避けられるのでは……? うん、よし、わざと負けよう。
などと考えていると、ドミンゴとアーデから熱烈なエールが飛んでくる。
「エルド様! あんな人、やっつけちゃってください! エルド様なら余裕です!」
俺はわざと負けるために、なにもしないつもりでいた。
ミレイは、剣を構え、俺に迫ってくる。
「いくぞ! 貴様の不正を暴いてやる! この不届きものめ!」
俺は一応、剣を構えてミレイの剣を受け止める。
ミレイの剣が俺の剣に当たる……!
――キン!
しかし、その瞬間ミレイは大声を上げてうめきだした。
「っく……! ぐあああああああああ!!!!」
「どうしたんだ……!?」
「て、手があああああああああ」
どうやら俺の剣が硬すぎて、ミレイの手に大ダメージがいったようだ。え。俺なんにもしてないんですが……。
まさか、レベル7とレベル9999って、そこまでの差があるのか……?
今まで誰とも戦ったことなどないから、わからない。
「くそ……どうやらかなりのレベルの持ち主だというのは本当のようだな……! だが、貴族として、一度売った決闘は負けるわけにはいかない……!」
だがミレイはまだやる気のようで、果敢にも俺に再び向かってくる。
だめだ、このままだと普通に勝ってしまう。
剣で受け止めれば、今度こそミレイの腕が折れてしまうだろう。
俺は剣をわざと捨てることにした。
ミレイの剣が俺の剣に当たる寸前、俺は剣を手放して、地面に落としたふりをする。
ふぅ、これで俺の負けで、一件落着。俺はちょっと汚名を被ることになるけど、目立たないで済む。レベル9999はなにかの間違いだったと噂で広まれば、2学期にはもうみんな俺のことなど忘れているだろう。
そう思ったのだが――。
「うわ……! 落としちまったぁー!」
(棒読み)
俺は剣を地面に落とす。
そして、ミレイの剣が俺の腕に突き刺さる。
まあ、多少の痛みは我慢しよう。どうせ後で治せばいいしな……。
――ズバッ!!!!
しかし、実際に斬られて血が出たのは、ミレイの腕だった。
「ぎゃあああああああ!」
「は……?」
なんと、俺の腕に当たった剣は、その場で真っ二つに折れた。
そして折れた剣先が、跳ね返ってミレイの腕に突き刺さったのだ。
その場で、俺の勝利が審判によって宣言される。
「そこまで! 勝者エルド・シュマーケン!!!!」
なんか、普通に負けるつもりでいたのに勝っちゃったんですが……。
俺、なにもしてないよ?
まさかレベルの差が、ここまで戦闘に関わってくるとは……。
しかし、回復魔法を使っていただけでここまで強くなれるなんてな。
もしかしたら、今の俺なら回復魔法以外にもいろいろ魔法使えたりするのかな?
そんなことを考えていると、
「っく……やるじゃないか……。どうやら、たしかにレベル9999というのは本当のようだ。認めよう」
とミレイが悔しそうにしながら、そう言ってきた。
ミレイは血が出ている腕を抑え、苦しそうにしている。
ありゃ……これはけっこう深くまで傷がいってるな。下手したら、もう二度とは剣を握れないかもしれない。
俺はすかさず、そんなミレイに駆け寄っていた。
「おい、大丈夫か? けがさせてしまったな。悪い、いま治す」
「は……? え……?」
俺はミレイの腕に手を当てて、回復魔法をかける。今まで散々欠損奴隷を治してきた俺だ。このくらいの傷なら、ほんとうに一瞬で治すことができる。
俺がそうやってやると、ミレイは驚いた顔をしていた。
「い、いま何を……?」
「何って、傷を治しただけだが。アーデが言ってただろ、俺は回復魔法が得意なんだ」
「そ、そうか……すまない、ありがとう……」
「いや別に、俺がさせた怪我だからな。このくらい、お安い御用だ」
「その……すまなかった。レベルのこと疑ってしまって……。君がこんなふうにしてくれる優しい人だともしらずにな……。ほんとうにありがとう。この腕は、失うわけにはいかない大切なものなんだ。これでまた、剣を握れる」
ミレイは少し顔を赤らめて礼を言った。てかなんでそこで赤くなるんだ?
ミレイのいう大切なものってのは、妹のことだろうな。
ゲームでは、ミレイは妹のために剣を握っているという設定だった。
その辺の事情があって、主人公アルトと共に魔王を倒すっていう流れになるんだったっけか。
そんな俺たちのもとに駆け寄ってきたのは、先ほど俺たちを決闘に焚き付けたクレア姫。
クレアは俺たちのところまでくると決闘を称えた。
「すばらしい戦いでしたね。エルドさん、私もあなたを少しでも疑ってしまったこと、ここでお詫びして訂正します。本当にお強いんですね」
「あ、ああ……まあ、わかってくれたならいいさ」
なんか勝っちゃったし、もう俺がレベル9999であることは認める方向でいこう。
「実は、ちょっとエルドさんを試したんです」
「え……?」
なんだか不穏な感じがする。姫さまが、俺を試した……?
「エルドさんが本当に強い方なのかどうかを……。それを確認したくて、あんなことを。でも、よかったです。エルドさんがレベル9999で……」
「それは……どういう……?」
「この国のために、魔王を倒す勇者の一団となってはくれませんでしょうか?」
「は、はぁ……????」
わけがわからなかった。なんでそうなるんだ。
「実は、近いうちに、魔王が復活することになっているのです……。それは、まだ王族や一部のものだけの秘密なんですが……。ですが、エルドさんなら、レベル9999のエルドさんなら、きっと戦力に……!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
おいおいどうなってんだ。破滅フラグどころか、俺が魔王を倒す勇者になれだと……?
ってことは、主人公?
エゴイスティック・ファンタジーの世界では、魔王を倒すのは当然、主人公であるアルトだった。
それはこの世界でも同じはずだ。
アルトは光の勇者なんだからな。
えーっと、ちょっと待てよ。
俺は遠い記憶の彼方にある、エゴイスティック・ファンタジーのストーリーを思い出す。
そういえば、アルトが光の勇者として見出されるのには、きっかけがあったな……。
たしか、クレアが関わっていたっけ……?
俺はだんだん思い出してきて、だんだん胃が痛くなってくる。
げろ吐きそう。
あ、そうだ。クレアだ。
勇者アルトを指名したのは、他でもないこの姫さまだったはずだ。
それが今はどういうことだ? 俺をその勇者にしようとしているのか?
待て待て待て待て。俺はアルトに成り代わる気なんてないぞ?
このままだと、さすがに話がややこしいことになる。
なんとか回避する方法はないのか?
俺はさらに記憶をたどる。
そういえば、クレアとアルトが一気に急接近するイベントがあったはずだ。
それは、入学式の直後に起きたっけ。
そう、ちょうど今ぐらいのタイミングで――。
そのときだった。
急にクレアが咳き込み始めた。
そして、その場に血反吐を吐いて倒れてしまった。
「けほけほ……ぐぼぉあ……!」
「クレア……!?」
俺はあわてて、クレアのことを支える。くそ……なんで今更。
俺は完全に思い出した。そう、このイベントだ。
入学式の直後、クレアはこうやって倒れてしまう。クレアは生まれつき身体が弱く、たびたびこうやって倒れる設定だ。
その病状が急に悪化して、学園で倒れてしまう。そこをアルトがたまたま、光の力で治療するという話だったはずだ。
これをきっかけに、二人は急接近。
そのまま、アルトは光の力に目覚めていき、クレアはアルトにどんどん惹かれていく。
だが、ここにはアルトはいないし、代わりに俺がクレアを抱きかかえているという謎の状況に……。
くそ、俺が物語序盤に介入してしまったせいで、イベントのタイミングがおかしなことになったのか。
それもこれも、ミレイが変なことを言い出したせいだ。
いや、もとはと言えば、俺がレベル9999なんてデタラメな数値を出したせいだ。
いや、もっといえば、レベル9999になってしまったのは、幼少期に回復魔法を極めようとしたせいだ。
あれ……? これ、詰んでね?
俺が破滅フラグ回避のために回復魔法を修行して、そのせいで今こんなことになってるんだ。
じゃあ、俺は結局どうすればよかったんだ……?
「うぅ…………うぅ…………」
そうこう考えている間にも、クレアは俺の腕の中でしんどそうに呻く。
くそ、このまま放っておくわけにもいかない。
アルトがここに現れてくれればいいんだが……。
あれほど関わりたくないと思っていたアルトだが、今はあいつが誰よりも恋しい……。
「エルド様! クレア姫が苦しそうです……! ここはなんとか、エルド様のお力で……!」
と、アーデが期待に満ちた目を向けてくる。
うん、そうだよね。この流れ、俺が治療する感じになるよね。
くそ、どうすればいい。これ、俺が治療しちゃって大丈夫なのか……?
だが、このまま放っておいたらクレアは死んでしまう。
姫様を目の前で死なせたりしたら、処刑されてもおかしくないぞ。
ええい、ままよ。
俺はとびっきりの回復魔法をクレアに放った。
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