第19話 修行
ある日のことだ。
冒険者組が、俺におかしな提言をしてきた。
「エルド様! 俺たちもっと強くなりたいんです! 修行をさせてください!」
「はぁ……」
俺は今のところ、こいつらの収入に文句はない。
魔法使いのアカネが入ってからというもの、さらに高難易度のクエストにも挑めるようになって、効率もよくなってきている。これ以上、収入をあげる必要もないと思っていた。
「いや、ドミンゴ。お前たちはよく頑張ってくれているよ」
「いいえ、俺たちはもっとエルド様のお役にたちたいんです!」
「まあ、そこまで言うなら……」
ということで、俺は彼らの修行に付き合うことになった。
修行のやりかたはこうだ。
まず三人のうちの二人が本気で戦う。
そして戦闘後、傷ついた両者を俺が癒すというもの。
残った一人は審判兼休憩。
そしてそれを入れ替わりつつ、何度も繰り返す。
傷ついた筋肉を何度も回復させ、増強。
本気の死闘を何度も繰り返すことで、どんどん強くなるという寸法だ。
普段のクエストでは、あくまでクリアできる程度のモンスターとしか戦わない。
こうやってたまにはリスクをとって本気で戦うことが、強くなるには必要だった。
「それにしても……よーやるわ……」
冒険者組三人は、それこそ本気でお互いの命をとりにかかっていた。
おかげで、すぐに腕がもげるわ目がつぶれるわ。
それだけ俺の回復魔法を信頼しているのかしらんが、さすがに過信しすぎじゃないのか?
「うぉえ……」
「ぎゃあああああああ!!!!」
「ぐわあああああ!!!!」
三人は容赦なく殴り合った。
そしてそれを、俺が片っ端から治していく。
「おいおいお前らたいがいにしておけよ……」
正直、強くなるためとはいえここまでやるこいつらにちょっと引いてしまう。
痛いはずなのに、治るからといってやりすぎだろ……。
だが、そのおかげもあって、彼らの戦闘能力は、ぐんぐん伸びていった。
ドミンゴなんかは、最初奴隷商で会ったときとは別人なくらい、筋肉マッチョになっている。
オットーも、弓をひきすぎて、腕だけめちゃくちゃゴツくて、暗闇でみたらどこぞのモンスターかと思ってしまうほどだ。
アカネは魔法使いだったが、どんどん魔力を増していった。
どうやら俺がアカネの身体を回復させると、それに伴ってある程度魔力も回復するようだ。
魔法っていうのは、気力や体力に直結しているからな。
とにかく三人は、傷ついて回復しての繰り返しで、超人的なまでの強さを手にしていった。
◆
冒険者組は強くなって、とうとうAランク冒険者の称号を手にした。
そんな彼らが、ある日帰ってくると――。
「いてて……さすがに今回は死にかけた……」
「うう……しぬぅ……」
三人は血まみれで帰還した。
それはもう死ぬ寸前というくらいで、腕もいくつかもげていた。
俺はすぐに三人に駆け寄って、治療してやった。
「へへへ……エルド様、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「お前たち……なにがあったんだ……!?」
俺は尋ねた。
これほどまでに負傷してきたことは、今までにはなかったはずだ。
そりゃあもちろん、モンスターと戦うわけだから、多少の傷はあった。
だが、こんなのって……。
もしかして、クエストが失敗に終わったのか……?
「それが……ちょっと難易度の高いクエストに挑戦したんです。俺たち奴隷ですから、死んでもいいかなっておもって……。ほら、エルド様お誕生日でしょう? だから、どうしてもエルド様のために、大手柄をたてたくて……。なので、Sランクギリギリの高難易度クエストに挑んだです……。それが、このざまです」
ドミンゴはそう説明した。
俺はキレた。
「ばっきゃろおおおおおおおお!!!!」
「え…………?」
「お前、死んだら意味ないだろおおおおおおおお!!!!(俺がお前らを育てた意味が)」
「エルドさま……」
「手柄なんかどうでもいい! (俺が欲しいのは安定した収入だ)
もっと命を大事にしろ! (死んだら結局赤字になるからな)
俺のことなんてどうでもいい! (必要なのは金だ)
お前らが死んだら、俺は…………っ! (安定収入がなくなるじゃないか)」
俺は涙ながらにそう説明した。
どうやらこいつらは俺の意図がちゃんと伝わっていないようだ。
もっと自分のことを大切にしてもらわないと困る。
奴隷だからといって、その命は決して安くない。
しみついた奴隷根性をなんとかせねばな……。
「エルド様……すみませんでした。俺たち、もっと頑張ります。もっと強くなります! エルド様を心配させないくらい!」
「いや、もう十分強いから難易度そこそこのクエストを受けてくれ」
「エルド様……そこまで俺たちを心配してくださって……おやさしい……」
◆
【sideドミンゴ】
「ばっきゃろおおおおおおおお!!!!」
「え…………?」
俺がことの経緯を説明すると、エルド様は急に怒りだした。
まるで親が夜遅くまで遊んでいた子供を心配し、しかりつけるように、俺たちを諭す。
「お前、死んだら意味ないだろおおおおおおおお!!!!」
「エルドさま……」
俺たちはあくまで奴隷。それなのに、エルド様は真剣な目つきでそう言った。
「手柄なんかどうでもいい!
もっと命を大事にしろ!
俺のことなんてどうでもいい!
お前らが死んだら、俺は…………っ!」
エルド様は涙ながらにそう訴える。
そのお姿に、俺も感動してしまった。
奴隷に命を大切にしろなんて、そんなことを言うのはこのお方だけだ。
俺たち奴隷なんて使い捨てのはずなのに、そんな俺たちを心配してくださるなんて……。
しかも、涙まで流して……。
「エルド様……すみませんでした。俺たち、もっと頑張ります。もっと強くなります! エルド様を心配させないくらい!」
「いや、もう十分強いから難易度そこそこのクエストを受けてくれ」
「エルド様……そこまで俺たちを心配してくださって……おやさしい……」
俺はエルド様のあたたかい心遣いに報いるためにも、決して死ぬわけにはいかないなと思った。
俺たちはこの人のために、もっともっと強くなろう。
そう心に誓った。
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