第20話 俺も昔は――【サイド回】
【sideドミンゴ】
ある日のことだ。俺たち冒険者組三人が、クエストから帰還し、酒屋で祝勝会をあげていたところ――。
「カンパーイ! いやぁ、今日も頑張ったなぁ。オットーのあの弓は最高だったよ」
「いやぁ、ドミンゴさんの動きもすごかったですよ」
「リバイアサンの脳天に直撃! あれはすごかったなぁ」
そんな話をしていたところ、口を挟んできた男がいた。
「はは、リバイアサンか。懐かしいな。お前たち、ひょろそうに見えて、リバイアサンを倒してきたのか?」
男は、口ひげを蓄えたダンディな男で、車いすを押していた。
かなり酔っ払っているようで、顔が鼻先まで真っ赤だ。
「ああ、そうだが……。あんたは? あんたも冒険者なのか?」
「いや、俺も昔は、あんたらみたいな冒険者だったんだが、この通り、ひざに矢を受けてしまってな……。今はこうして、飲んだくれをやっている」
「そうか、よかったら一緒に飲むか? いっぱい驕るよ」
「お、それはいいね。どれ、昔話を披露しよう」
それから、男は酒を飲むと、冒険者だったころの話をし始めた。
男の話はどれも興味深く、まるで神話に出てくる英雄の話をきいているみたいだった。
彼の名は、マードックといった。
マードックの話によると、彼は昔Sランクの冒険者だったという。
俺たちが今てこずっているモンスターについても、話をしてくれた。
ブラッディグリズリーの弱点を教えてくれたり、実のある話がたくさんきけた。
マードックが足を失う羽目になった事件についても、教えてくれた。
ゴブリンアーチャー・エリートが放った毒矢が、マードックのひざに直撃したのだそうだ。
普通の回復魔法もきかずに、切断を余儀なくされたらしい。
マードックほどの冒険者が、足を洗う羽目になったというのは、残念に思う。
彼ほどの冒険者なら、Sランクのもっと上、SSランクすらも目指せただろうに。
しかもマードックの腕は、話をきくかぎりだと、かなりの猛者だ。
俺たちは3人でAランクだが、マードックはソロでSランクまで上り詰めたらしい。
話をきいているうちに、俺はだんだんマードックに感情移入していって、彼のことがたいそう気の毒に思えてきた。マードックはいまだに飲んで、冒険者だったころの昔話をするくらいだ。冒険者に対して、まだ未練が残っているように思えた。
そこで、俺はある提案をしてみることにした。
「マードック、もしよければ、その足を俺たちの主人に見せてみないか? きっと、エルド様なら力になれるはずだ」
「おいおい、お前たち奴隷なんだろ? そんな、主人を使うような真似していいのか? 主人に命令するとはなにごとか! と怒られるんじゃないか?」
「いや、エルド様なら、そんなことは大丈夫だ。きっと、話をすれば回復魔法をかけてくださるはずだ。エルド様はまるで天使のようなお方だからな」
「そうか、そこまで言うなら、お願いしようかな」
「ああ、今日帰ったら頼んでみるよ」
俺はマードックにそう言って、約束をした。
◆
エルド様にマードックの話をすると、二つ返事で快く引き受けてくださった。
「なるほどな、事情はわかった。たしかに、それはもったいない話だ。その男を連れてこい」
「エルド様……! ありがとうございます!」
やはり、持つべきものは理解のある主人だな。
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