第18話 サイレントボイス【サイド回】
【sideアカネ】
私は小さなころから、魔法使いに憧れていた。
だけどそれは、私には絶対に叶わない夢だった。
「あ――――」
声を出そうとしても、喉が詰まる。私は生まれつき、うまく声を出すことができなかった。
声が出せなければ、魔法を詠唱することはできない。
その上、戦争で腕を失った。
腕がなければ、魔法陣を描くこともできない。
いろんなことがあって、私は今奴隷商に売られている。
もはや子供のころの夢なんて、忘れかけていた。
だけど、やっぱり忘れられなくて。
(暇だ――――)
奴隷商でつながれている間、私は暇を持て余していた。
買い手もつかず、ずっと鎖でつながれているのは、本当に苦痛だ。
そのうち、私は頭の中で妄想をしだした。
魔法使いになった妄想だ。
空想の世界では、私は確かに魔法が使えた。
私はずっと、そうやって過ごしていた。
そんなある日、この私を買っていった人物が現れた。
名をエルド・シュマーケン。
彼は私を連れて帰ると、回復魔法をかけた。
◆
【sideエルド】
「これでよし……っと」
俺は新しく買った欠損奴隷のアカネを治療してやる。
アカネは口がきけず、腕も失っていた。
声を与えてやると、アカネはすぐにしゃべりだした。
「あ、あのっ! ご主人様……!」
「なんだ……?」
「ほ、本当にありがとうございます! 私、声を出すのがずっと夢だったんです!」
「それはよかったな」
さて、これからどうするかな――。
このアカネという奴隷、なにか得意なことはないのだろうか。
まあ、特にうちでの役割がないようなら、適当な相手に売ればいいか。
そう考えていると――。
アカネはおもむろに俺の腕を触りだした。
「は……?」
「ヒール――!」
なんとアカネは俺に回復魔法をかけていた。
「な、なんの真似だ……?」
「その……ご主人様の腕に擦り傷がありましたので……」
「そ、そうか……。それは、ありがとう。だが……驚いたな。アカネ、魔法が使えるのか?」
アカネは、ついさっきまで魔法の詠唱なんてできない身体だったはずだ。
それに、彼女は長い間奴隷だったときいている。
いったいどこでこんな魔法を……?
「いえ、ついさっき、ご主人様のをみて、見様見真似で真似してみただけです。その……実は私、魔法を使うのに憧れていたんです。こうして魔法を使えたのも、全部ご主人様のおかげです!」
「は…………?」
俺はその言葉をきいて、驚愕していた。
見様見真似で……だと……?
たしかにヒールは回復魔法の中でも、一番簡単なものだ。
俺の使うエクストラヒールとは違って、たしかに真似でできるかもしれないが……。
だが、魔法を使ったことないのに、本当にそんなことができるものだろうか……?
「ま、魔法は使ったことないんだよな……?」
「は、はい……」
驚いた。いくら簡単なヒールだからといっても、これはすごい才能だ。
「その……いつも魔法使いに憧れて、イメージトレーニングだけはしていましたから」
「それにしても……お前はすごいぞ」
イメージトレーニング……憧れか。
魔法とは、意思を具現化する行為。
魔法の素質や強さは、意思の強さとかなり関係がある。
だとしても、それはどれだけの強い意志だろう……。
彼女は今までどんな思いで……。
「おい、アカネ。ちょっと他にも魔法を使ってみろ。今度は攻撃魔法だ」
「は、はい……! よろこんで! えい! ファイア!」
すると、アカネはいとも簡単にファイアを繰り出してしまった。
これは……ものすごい掘り出し物を見つけてしまったのかもしれん。
アカネは、魔法の天才だ。ま、回復魔法で俺の右にでるものはいないがな。
「お前……すごいな……」
「いえ、ご主人様の回復魔法ほどではありません」
「よし、アカネは冒険者奴隷としてうちで働いてもらおう」
「冒険者……ですか……?」
「ああ」
俺はアカネにドミンゴとオットーを紹介した。
近接戦闘のドミンゴ、弓使いのオットー。それから魔法使いのアカネ。
これで、バランスのいい冒険者パーティになったと思う。
◆
【sideアカネ】
私はご主人様から、冒険者としてのお仕事をいただいた。
仲間として働いているドミンゴさんもオットーさんも、とってもいい人だ。
それに、思い切り魔法を使うことができる。
私は、夢だった魔法使いになれたのだった――。
「ご主人様、本当にありがとうございます! 魔法が使えるなんて夢のよう! 毎日冒険はとってもやりがいを感じています!」
「そうか、それはよかった。俺もアカネを買ってよかったよ」
私は今、とても必要とされている。そのことがとてもうれしかった。
◆
【sideエルド】
アカネを買ったのは大成功だった。
彼女は冒険者として、ものすごく優秀だった。
回復魔法はさすがに俺のほうが上だが……アカネはあらゆる魔法をまんべんなく使うことができた。
それは、ひとえに彼女の魔法への執念によるものだろう。
40Gで買って、かなりの儲けになった。
最初はドミンゴ一人から始めたこの冒険者奴隷ビジネスだが。
今では3人パーティになって、かなり効率よくクエストをこなせるようになっていた。
彼らはすでにBランク冒険者となり、ギルドでもそこそこ名が知れているようだった。
これからも、俺のためにたくさん稼いでもらいたいと思う。
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