第11話 ハッピーエンド


 俺はまたしても奴隷市場にきていた。

 欠損奴隷を売っているエリアばかりをうろついているもんだから、そろそろ店の主人たちに顔を覚えられてしまった。

 まだ若いのに欠損奴隷ばかりを買っていく物好きな兄ちゃんとして認識されている。

 そこで、奴隷商のほうから俺に連絡があったのだ。


 曰く、没落貴族の娘が手に入っただの。

 俺はべつに没落貴族の娘だろうがなんだろうが、なんでもいいんだけどな。

 だが話によると、その没落貴族の娘はひどく欠損をしているらしい。

 没落貴族の娘を治して売れば、きっと高く売れるだろう。

 ということで、俺はその奴隷を買いにきたのだった。


「へっへっへ、坊ちゃんもほんと、物好きですな」

「いや、変な勘違いはやめてもらいたいんだが……」


 店主から謎の目線をもらいつつ、俺はその奴隷を買って帰った。

 奴隷の名は、シャンディというらしい。

 シャンディの家は没落して、解散となったそうだ。

 その際に、シャンディだけはもともと足がなく、逃げ遅れたのだとか。

 あれこれあって、シャンディだけが奴隷狩りにつかまり、こうして奴隷になったのだという。


「ま、気の毒だったな。安心しろ、足は治して、まともな主人のもとに売ってやる」


 俺はシャンディの足を治して、再び歩けるようにしてやった。


「っく……こんな足を治して、私を服従させる気か!? 奴隷の身分に落ちても、私は魂までは落ちぶれない! 最後まで気高い貴族のままだ……!」

「おう、そうか」


 シャンディのような元貴族の奴隷は、だいたいみんなこうだ。

 反抗的で、プライドが高い。

 無理やり奴隷紋で痛めつけでもしないと、仕事をさせられないくらいに。

 だがまあ、シャンディは売るために買った奴隷だ。

 シャンディの態度が悪かろうが、実際に使うのは俺じゃない。

 シャンディを買っていくどこぞの貴族だ。

 だから、俺にとってはさほど問題じゃなかった。


 元貴族の奴隷となれば、そこそこの値がつく。

 だが幸い、シャンディは欠損奴隷だったため、130Gと安く仕入れることができた。

 これを治して売れば、かなりの利益になる。

 俺の目的は、ただそれだけだった。

 シャンディがこの先どうなろうと、知ったことではない。

 だから彼女の態度も、軽く受け流していた。


「っく……卑劣な奴隷商人め……。私をどうするつもりだ……!」

「どうって、売るだけだけど……?」

「人を売り買いするなんて……」


 シャンディのその言葉に、俺は少しだけ引っ掛かった。


「あのなぁ……。お前だって、もと貴族なんだったら、奴隷くらい使っていたよな?」

「っく……そ、それは……」

「それなのにその言葉は、おかしいんじゃないのか? 他人が虐げられるのはよくて、いざ自分が奴隷として売られたら倫理観を問いだすのか? それって、偽善っていうんじゃないのか?」

「うるさい黙れ! 奴隷の人権と私のような貴族は違う……!」

「ま、今お前はその奴隷なんだけどな……」


 まあ、お嬢さまになにを言っても無駄か。

 正直、そのままの考えでは、この先地獄をみることはあきらかだ。

 はやいうちに心が折れて、奴隷としての自覚を持てれば、奴隷として生きていくことは可能だ。

 だが今のままのシャンディの態度では、おそかれはやかれ、主人に殺されてもおかしくない。

 殺されないまでも、ひどい目にあうのは確実だ。

 ま、俺の知ったことではないか……。


「よし、じゃあお前を明日売りにだすから。それまでの付き合いだ」

「っく……殺せ……」

「いや、売り物なんだから殺さんよ……」


 そして、俺はシャンディをカタログに登録し、売りに出した。

 すると、なんとその日のうちに、シャンディはすぐに売れた。

 まるで、シャンディが売りに出されるのを見計らったかのように……。

 どういうことだ……?

 シャンディを購入した貴族がやってきて、ようやくその謎がとけた。


「シャンディ……! 会いたかったぞ……!」

「お、御父様……!?」


 御父様……?


「ようやくうちの財産を取り戻せたんだ……! よかった、お前がまだ他の貴族に売りにだされるまえで……」

「御父様……! よかったです、本当に……!」


 なるほど、シャンディの父は没落から復活したということか。

 それで、なにがなんでもはぐれてしまった娘をとりかえそうと、網を張ってたわけか。


「ごめんなシャンディ……おいていったりして、もう二度とはなさないからな……!」

「いいんですわ御父様、しかたのないことです。でも、もうこうして再び会えたのだから……!」


 ま、なんだかなんだ、ハッピーエンドでよかったかな。

 俺は別に、売れて金が手に入ればどうでもいいしな。

 シャンディが悪徳貴族に買われてひどい目に合おうが、家族と再会できようが、俺に入ってくる金額はかわらない。

 それでも、ちょっとだけ気分はいいかな。


「シャンディ……!? 足が生えているじゃないか……!? ど、どういうことなんだ……!?」

「それは……こちらの奴隷商人……いえ、エルド様がお救いくださったのです」

「なに……!? エルド様、あなたがシャンディの足を……!?」


 シャンディのやつ、自分が奴隷として売られないとなるやいなや、俺のことをエルド様か。

 まあ、いいけど。


「ああ、そうです。俺が治しておきました。まあ、金のためです。礼はいりません」

「ほんとうになにからなにまで……ありがとうございます! この恩は決して忘れません、また、エルド様のお店をつかわせていただきますね……!」

「それは、どうも……」


 なんだか顧客が増えた。

 話をきくと、シャンディの父はすっかり没落貴族からは復活して、今では前にもまして大金持ちだそうだ。

 これは今後の上客として期待できるな。


 ちなみに、シャンディは14000Gで売れた。

 まあ、娘を買い戻す値段としては安いだろう。

 俺ももうかったし、ウィンウィンだ。

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