第10話 さらに奴隷を売ってみよう


 奴隷のハレルヤを売って大金を得た俺は、それに味を占めた。

 もっと奴隷を治して売っていけば、さらなる大金が手に入る。

 そして大金はきっと将来の俺を助けてくれるだろう。

 ということで、もうおわかりの通り、いつもの奴隷市場に。


 また適当に欠損奴隷の中から買う奴隷を選ぶ。

 でもどうせなら、欠損具合のひどい奴隷を選ぼうか。

 片腕だけを失っている奴隷とかは、まだ買い手がつく可能性がある。

 だが、欠損具合がひどければひどいほど、需要がないだろうからな。


 あまりにも欠損がひどいと、それだけ処分の判断が下されるのもはやくなるだろう。

 欠損がましな奴隷のほうが結果的に長生きするだろう。

 だから俺は欠損のひどい奴隷から買っていくことに決めた。

 これは別に俺にやさしさがあるからとか、同情からくるものじゃない。

 単に欠損がひどいほうが、仕入れ値も安くすむからだ。


「こいつをもらおうか」

「へい。20Gです」

「安いな。そんなんでいいのか」

「こいつは欠損が特にひどいですからね。女の奴隷だってのに、胸が切り落とされている」

「そうか。まあいい」


 どうせ、俺が全部治すんだからな。


 俺はその奴隷、ミルコを屋敷に連れて帰った。

 ミルコは一見して、男に見えるような見た目をしていた。

 髪は短く、ぼさぼさだ。

 それに胸は切り落とされて、包帯がまかれた状態になっている。

 腕も足もなく、声帯も失っているようだった。


 そんなミルコを、俺はいつものように治療してやる。

 最初こそ不安からか、抵抗をみせたが、ミルコは癒してやると大人しく俺に従った。

 ミルコの腕と足を治し、今度は胸を治してやる。

 胸を治すと、意外なことにミルコはとんでもない巨乳だった。

 これは、性奴隷としてかなり需要があるだろう。


 声帯も治せるようにして、ミルコは喋れるようになった。

 身体を治したことで、ミルコは俺への警戒を解いたようだが、どこか俺を拒むようなそぶりをみせた。

 今までの奴隷とは違って、ミルコはかなり奴隷商人への嫌悪感が強そうだ。

 まあ、これが本来奴隷としては普通の反応なのかもしれない。


「お、俺を治してどうするつもりだ……!」


 ミルコは、一人称を「俺」としていた。

 不思議と、ボーイッシュな彼女がそういうと違和感がない。


「別に、お前を治して高値で売る。それだけだ」

「ふん……情けをかけたつもりか」

「いや……?」


 なんだかミルコは勘違いをしているみたいだな。

 俺が同情や優しさで治療を施したと思っているらしい。

 単に値段が上がるからなのだが……。

 まあいい。明日にはミルコを売りにだそう。


 だが翌日――。

 とんでもないことが起こった。


「う、うぅ…………」

「ミルコ……!? なにをやっているんだ……!?」


 ミルコを商館へ連れていこうと、部屋に行くと――。

 そこには自分で自分の胸を切り落として、うめいているミルコがいた。

 かなりの出血をしている。

 俺は急いで、治療する。


「なんでこんなバカなことを……」

「う、うるさい。お前には関係ないだろ。俺は、この大きな胸が嫌いなんだ」

「そういうことか……」


 もしかしたら、ミルコはもともと、自分で胸を切り落としていたのかもしれないな。

 ボーイッシュな格好といい、口調といい、彼女は自分にコンプレックスをかかえているのだろう。

 俺は、ミルコの胸を完全に再生させることもできたが、今回はそうはしなかった。

 どうせまたこいつは切り落としかねないからな。

 ミルコの胸を、なんとか出血だけとめて、けがだけを治してやる。

 これでミルコの胸は無事に、小さいままで綺麗に縫合できた。


「これならいいか?」

「ふん……別に……頼んでなどいない」


 治療し、落ち着いたミルコに、俺は事情を尋ねる。


「どうしてこんなことをしたんだ?」

「どうせ俺の胸だ。性奴隷にされるに決まっている。それが……嫌なんだ。どうしても……。だから、売りに出される前にこの忌々しいデカい胸を切り落とそうとした……。それだけだ」

「なんだ。そんなことか。そういうことなら、言ってくれればいいのに」

「は……?」

「別に俺は金が手に入ればいいからな。性奴隷がいやなら、他の奴隷として売りにだせばいいだけの話だ。他に使い道があれば、高く売れるのだから」


 ミルコはガタイもいいから、戦闘用の奴隷としても重宝されるだろう。

 俺は別に金が手に入りさえすれば、奴隷がどのようにつかわれようが、どうでもいいからな。


「じゃあ、お前を戦闘用の奴隷として売りにだすが、それでいいか?」

「あ、ああ……その……たすかる」

「別に、いいってことだ」

「それに、胸を小さく、綺麗にしてくれたのも……」


 ミルコは少し照れながら、礼を言った。

 ちょっと不覚にもかわいいと思ってしまった。


 そんなミルコは、すぐに戦闘用の奴隷として貴族に売れた。

 ミルコは見た目もいいし、ガタイもよく、身体能力も高い。

 なんと20Gで買ったのに、8500Gで売ることができた。

 性奴隷としてもミルコは売れただろうが、これでも十分な収益だ。

 俺はなんら文句はなかった。

 ミルコも、自分の希望が叶ってうれしそうだった。


 そんなミルコが、主人に連れられ、また商館に来ることがあった。

 ミルコは、今の生活に非常に満足しているようだった。

 元気そうでなによりだ。


「あの……エルド様。その際は、非常にお世話になりました……」


 口調も、だいぶ丸くなったようだな。


「胸を小さくしていただき、俺の要望通り、性奴隷にはしないでくださいました。今は主人の護衛として働いています。すごく待遇もよく、やりがいのある仕事です! これもすべて、エルド様の治療魔法のおかげです!」


 ミルコは満面の笑みでそう言って、去っていった。

 ま、売れた奴隷がどうなろうと、俺の知ったことではないが……。

 そう言われて悪い気はしなかった。

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