第9話 奴隷を売ってみよう


 これまでにアーデ、ドミンゴと二人の欠損奴隷を治してきて、俺もかなり回復魔法になれてきた。

 アーデほどの欠損状態でも治せるのだから、もうほとんどの奴隷は治療できるだろう。

 ということで、俺は今度は奴隷を売ることにした。

 ドミンゴのようにクエストをやらせておけば、定期的に小金は入る。

 だが、ここらでいっちょ大金が欲しくなったのだ。


 まとまった金さえ手に入れば、またそれを元手にいろいろなことができる。

 金は俺が破滅フラグから生き残るのに、必要不可欠なものだった。

 俺が欠損奴隷を安くかって、治療すれば、買ったとき以上の値で売れるだろう。

 ということで、俺は再び奴隷市場にやってきた。


 見つけたのはハレルヤという名の少女奴隷だった。

 まだ奴隷市場に売られたばかりで、人々の目に怯えていたのを、不憫に思ったのだ。

 ハレルヤはまだ幼く、性奴隷としての需要も見込めなさそうだった。

 顔は綺麗で、左足と右腕だけが欠損している。

 俺はハレルヤを連れて帰って、治療してやった。


「あ、あの……ご主人様、ありがとうございます。私を治してくださって」

「礼はいらない。お前を高値で売るために、商品の状態をケアしただけにすぎないからな」


 ハレルヤは治療して風呂に入れると、けっこうな美少女だった。

 ただの美少女というだけでなく、どこか気品がある。

 もしかしたら、結構ないいところの娘だったのかもしれない。

 奴隷にされたのには、なにかわけがありそうだ。

 まあ、奴隷なんてのはみんな多かれ少なかれ、なにかはあるもんだけどな。


 シュマーケン家には、奴隷を買いにくるお客さんが定期的にやってくる。

 うちで働いている奴隷とは別に、売り物ように仕入れてある奴隷を売っているのだ。

 主な客層は貴族だ。

 シュマーケン家は奴隷商として長く、それなりに貴族からの信頼もあつい。

 父の奴隷商館には、毎日たくさんの客が訪れる。


 俺はハレルヤを売るために、父にかけあった。

 そして、俺も奴隷商館に同行をゆるされたのだ。

 ハレルヤをカタログに加えてもらい、あとは売れるのを待つだけだ。


 ハレルヤは見た目も器量もよく、若い。

 目をつけた貴族の客に、すぐに売れた。


「エルド様、短い間でしたが、ありがとうございました。身体を治していただいた御恩は、主人が変わっても決して忘れません」

「ああ、むこうでもしっかりな。またけがをしたら、俺が治してやる」


 アフターサービスも欠かさない。

 ハレルヤは気が弱く臆病だから、心配だ。

 いい人に買われたのならいいけれど……。

 

 ハレルヤを買っていったのは、セモンド伯爵という貴族だった。

 伯爵は顧客リストの中でも、かなり質のいい客といえた。


 シュマーケン家では、顧客たちの情報を細かくリストアップしている。

 その顧客が、奴隷をどう扱うかによってランク分けがされているのだ。


 奴隷にひどい扱いをする客や、奴隷を過度に好待遇にする善良な客など、さまざまだった。

 父は、奴隷をひどく扱う客に売ることを好んだ。

 そういう客のほうが、すぐに奴隷を壊すからまた売れるのだ。


 だが俺は幼いハレルヤを売るのなら、善良な貴族にうりたいと考えた。

 まあ、セモンド伯爵は金払いもいいからな。

 別にハレルヤがどうなろうと俺の知ったことではないが、せっかく治した腕を壊されたりしたら腹が立つからな。

 俺は別に、医師でもないし、ここは病院じゃないんだからな。


 ちなみに、ハレルヤは30Gで買って、7000Gで売れた。

 かなりの利益になった。

 ただ欠損奴隷を安く買って、それを適正価格で売るだけでコレだ。

 それだけ欠損奴隷の価値が低いってことなんだけど。

 とにかく、これはいい商売だぞ。



◆◆◆



 それから数日して、またセモンド伯爵が店を訪れた。

 その際に、後ろにハレルヤがついてきていた。

 ハレルヤは俺をみつけると、にこっと笑ってこちらに寄ってきた。

 どうやら元気にしてそうでよかった。俺は安心する。


「あの、エルド様、あらためて、ありがとうございました。私は今、セモンド様に買われて幸せに暮らしています」

「そうか、それはなによりだ」

「エルド様のおかげで、とてもいいご主人さまに恵まれました。今はセモンド様のお屋敷で、まるで娘のように丁寧に扱われています。これも、すべてエルド様が私を元通りにしてくださったおかげです」

「大げさだな」

「いえ、あのままの欠損奴隷では、私はひどいところにしか買われなかったでしょう。ですがこうして治療してくださったおかげで、今の待遇に恵まれました。本当に感謝しています」

「それはよかった」


 それにしても、おかしなこともあったもんだ。

 売った奴隷に感謝されるなんてな。

 普通、奴隷商人っていったら、奴隷からしたら敵なわけだろう?

 まあ、俺はこれからもこの方法で商売を続けていこうと思った。

 ハレルヤには、どうかこのまま幸せに暮らしてもらいたいな。

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