第8話 人生って最高だ【サイド回】

【sideドミンゴ】


 俺はドワーフのドミンゴ。奴隷市場で、奴隷として売られている。

 ドワーフってのは、けっこう奴隷として人気だ。

 体力もあるし、ガタイもよくて、なんでもできる。

 鍛冶や戦闘には、ドワーフ奴隷がもってこいだった。


 だが、俺は奴隷市場の片隅で、いつまでも売れ残っていた。

 俺には腕がなかった。奴隷になる前に怪我をして、そのせいで腕を失った。

 そんな俺だから、奴隷としての価値はほとんどなかった。

 腕のないドワーフ奴隷なんて、誰も欲しがらないだろう。


 それに、俺はむさ苦しいオッサンだ。女奴隷のように性奴隷としての価値もない。

 腕がなくても女で顔がよければ、物好きが買っていくだろう。

 だが俺なんかじゃ男娼としての価値もない。


 俺は自分の人生に絶望しきっていた。

 奴隷の身に落ちたこともそうだし、奴隷としてすら需要がないなんて。

 せめて誰かに買われて仕事をもらえればと思ってしまう。

 そうすれば、いずれ奴隷の身から解放される日がくるかもしれない。


 それに、仕事があればやりがいもある。やりがいがあれば、生きる気にもなる。

 だが今の俺は、誰からも必要とされず、こうして奴隷市場の片隅で、処分される日を待つのみだった。

 そんな俺に、ある日転機が訪れる。

 俺なんかを買っていった奴隷商人が現れたのだ。


「死ぬ前に、俺のために働いてもらう」


 その少年は、俺にそう言った。

 そして、俺の腕に回復魔法を施した。


「こ、これは……!? すごいです。俺の腕が……!」


 回復魔法を受けて、なんと俺の腕が元通りになった。

 俺は信じられない思いだった。

 今まで死んでいた俺の目にも、光が戻る。

 あきらめていたのに、ここにきて希望が持てるなんてな。


 ふつう、失った腕を回復させようと思ったら、宮廷魔導医師に高額を支払って治してもらうか、エリクサーなどの超高級薬品を使うかだ。

 だがしかし、誰も奴隷にそんな大金をかけてまで、治療するような馬鹿はいない。

 そんなことをするくらいなら、同じ値段を出せば健康で有能な奴隷がいくらでも買えるのだから。

 だがこのエルド様というお方は、自らの回復魔法で俺を癒してしまわれた。

 このちいさな少年に、まさかそこまでの才能があるなんて。


 しかもエルド様は、俺を治療してくださっただけではなく、あろうことか、とんでもないことを言い出した。


「よしじゃあドミンゴ、今日から数週間、鍛えてくれ。剣と修練場は自由に使ってくれていい」


 エルド様はそう言うと、俺に剣を渡し、訓練施設を与えてくださった。

 奴隷である俺に、剣を渡してしまうなんて。反抗が怖くはないのだろうか。

 奴隷は主人に手をあげることはできない。だが、剣さえあれば、周りの人間を人質にとったり、いろんな悪さをするかもしれない。

 それなのに、このお方は迷いなく俺に剣を渡したのだ。


 わざわざ奴隷を訓練などさせなくてもいいだろうに、訓練施設まで与えて。

 奴隷なんてのは、基本が使い捨てだ。いくらでも湧いてくる。

 だから、奴隷が死んでもさほど誰も気にしない。代わりを使えばいいからだ。

 それに、元々有能な奴隷を雇えばいいだけの話。

 それなのに、この人はわざわざ俺に訓練をしろと言う。

 クエストに出て死なないために、訓練をしろと言うのだ。


「よし、そろそろクエストに行っても大丈夫なころだな。ドミンゴ、街へ行って冒険者として登録してきてくれるか? あとは適当に、金を稼いでくれればいい。その間は自由にしていていい」

「ど、奴隷の自分が冒険者ですか……? しかも、そんな自由でいいんですか……?」

「そうだな。クエストの報酬の8割を俺にくれればいい。あとの2割は次の冒険の予算にするなり、自分の小遣いにするなりしてくれ」

「そんな……! 奴隷の俺に、お金までいただけるんですか……!?」


 なんとエルド様は、俺をそこまで自由にしてくださった。

 これじゃあ奴隷というよりは、正規の傭兵に近いような仕事だ。

 こんな待遇は、普通に仕事を探してもなかなかないだろう。

 俺は腕を失ってから始めて、人間扱いをされたような気がした。


 エルド様に与えられた仕事は最高だった。

 クエストをこなし、その報酬を渡す。

 クエストを受けてそれを自分の腕でクリアするのは、とてもやりがいがあった。

 これじゃ奴隷じゃなくて、まるで普通の冒険者だ。


 今まで腕を失って絶望していた俺だ。

 自分の腕で稼いで、それで食う飯は最高に美味かった。

 エルド様から2割のお金は自由に使っていいと言われているので、クエストの帰りに飯屋にいったりもした。

 そんな日々を送るのは、やりがいにあふれていて、生きてるって感じがした。


 誰からも必要とされない。そう思っていた俺に、再び光が差したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る