第7話 奴隷を鍛えよう


 エルフの奴隷少女アーデを買っても、まだ俺の財布には余裕があった。

 欠損奴隷ということもあって、アーデはかなり安かったからな。

 アーデを買った翌週も、俺は奴隷市場についていくことにした。


 今回のお目当ては男の奴隷だ。

 今後、いろいろと金が必要になってくるだろう。

 破滅フラグを回避するために、金がたくさんあれば安心だ。

 だから、俺は金もうけの手段を考えたのだ。


 男の奴隷を買い、冒険者として働かせる。

 そうすれば、安定して収入が手に入るということだ。

 しかも仕入れ値は欠損奴隷だからめちゃくちゃ安く済む。

 なるべく、欠損奴隷の中でもガタイがよくて、やる気のありそうなやつを選ぼう。


 俺が目をつけたのは、ドワーフ種の奴隷だった。

 ドワーフはガタイがよく、体力もある亜人種だ。

 そのため、ドワーフ奴隷はよく肉体労働なんかに使われる。

 工房なんかで職人奴隷として働かせたり、冒険者紛いのことをさせられたりもする。

 ドワーフなら、冒険者として働かせるのにうってつけだろう。


 俺は腕のないドワーフを見つけて、そいつを買うことにした。

 値札を見て、あまりの安さに仰天する。まさに子供の小遣いでも買えるようなレベルだ。

 俺は店主にその奴隷をくれと話しかけた。


「お客さん、本当にいいんですかい? 腕のないドワーフなんか……なんの役にもたちませんよ?」

「こいつが役に立つかどうかは俺が決める。いいからこいつをくれ」

「へいへい」


 俺の買ったドワーフは、ドミンゴという名前だった。

 俺はドミンゴを家に連れて帰り、さっそく腕を生やしてやることにした。

 最初、ドミンゴの目には光が灯っていなかった。


「俺を買ってどうするんです。なにもできることはありませんよ。どうせ腕を失ったドワーフなんか……死ぬしかないんだ……」

「それはダメだ。死ぬ前に、俺のために働いてもらう」


 俺はドミンゴに手を当て、回復魔法を唱えた。


 ――キュアアアン!!!!


 ドミンゴの腕が生え、彼の目にも生気が戻る。


「こ、これは……!? すごいです。俺の腕が……!」

「ほら、これでお前にもまだ働けるだろう?」

「ありがとうございます……! なんとお礼を言えばいいか……」

「礼はいらない。その分働いてくれさえすればな」


 俺はドミンゴを冒険者としてクエストに出すつもりだ。

 だがその前に、ドミンゴを鍛えることにする。

 腕のリハビリもあるからな。

 昨日まで腕のない、ずぶの素人だったんだ。

 これから最低限鍛えてからじゃないと、またけがをするだけだ。


「よしじゃあドミンゴ、今日から数週間、鍛えてくれ。剣と修練場は自由に使ってくれていい」

「ありがとうございます! きっとご主人の期待にこたえられるよう、がんばってみせます!」

「よし」


 それからドミンゴは、ひたすらに剣を振り続けた。

 怪我をしたり筋肉痛になれば、俺がすぐに回復魔法をかける。

 その繰り返しで、ドミンゴはわずかな短期間でどんどん成長していった。


「よし、そろそろクエストに行っても大丈夫なころだな。ドミンゴ、街へ行って冒険者として登録してきてくれるか? あとは適当に、金を稼いでくれればいい。その間は自由にしていていい」

「ど、奴隷の自分が冒険者ですか……? しかも、そんな自由でいいんですか……?」

「なにか問題が……?」

「いえ、ただ……奴隷が冒険者なんて、あまりきかないもので……」


 普通、奴隷にそこまでの自由を与えるものは少ない。

 だがドミンゴは俺のことを信頼してくれているようだし、ある程度好きに動いてもらって大丈夫だろう。


「そうだな。クエストの報酬の8割を俺にくれればいい。あとの2割は次の冒険の予算にするなり、自分の小遣いにするなりしてくれ」

「そんな……! 奴隷の俺に、お金までいただけるんですか……!?」

「そのほうがクエストのパフォーマンスもあがるだろう? 息抜きは必要だ。その分、さらに稼いでくれれば問題はない」

「なんと言えばいいか……。腕を治してもらったうえ、こんな寛大な措置……。ここまでのチャンスをくださり、ありがとうございます……!」


 ということで、ドミンゴを自由行動にしてクエストに出してみることにした。

 夕方、ドミンゴはいくつかのクエスト報酬を手に、屋敷に戻ってきた。


「おおー! さすがはドミンゴ。けっこうな報酬になるじゃないか」

「これも、すべてご主人様のおかげです」


 この調子でドミンゴを稼働させ続ければ、安定して報酬が手に入る。

 ここでの報酬をもとに、また新たに奴隷を仕入れたりできるしな。

 それに、破滅回避を考えれば、金はいくらあってもいい。

 備えあれば患いなしだ。

 金は今後どんどん貯めていこう。


「本当にご主人様はすごいです。奴隷の自分を信頼して、ここまで任せていただけるなんて……。本当にお優しくて、人ができていらっしゃる。こちらも、この恩に報いるべく、やる気がでます」

「ふん、勘違いするな。これはあくまで金のためだ」

「そういうことにしておきます」


 実際、俺は自分の破滅回避のことしか考えてなどいない。

 ドミンゴがやりがいを感じたり、快適に過ごせていたりなど、俺の興味の範疇外だ。

 だが、それで感謝されるのであれば、それに越したことはない。

 俺に味方する奴隷は、多ければ多いほどいいからな。

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