第6話 ご主人様は神様です【サイド回】
※前書き
3話目に新エピソードを加筆しました。よかったら戻ってお読みください。
そのため、以前の3話を4話にずらしています。
ご理解の程よろしくお願いします。
2023 1/1
◆
【sideアーデ】
私の名はアーデ。
エルフの奴隷として、売られています。
とはいっても、私には手も足もありません。
それに、顔もひどく焼けただれて、とても見れたものではありません。
私の村は、盗賊に焼かれてしまい、仲間たちはみんな奴隷としてさらわれました。
私も同じようにつかまって、奴隷になったのですが、村を焼かれた際に大やけどを負ったのです。
手足もやけどで、切り落とさざるをえない重症でした。
そんな私は、奴隷商人たちに罵られながらも、首輪をつけられたのです。
曰く、私のような傷ものにはほとんど商品価値がないのだそうです。
それなのにご飯代がかかったりするので、私のような欠損奴隷はひどく商人たちから嫌われていました。
でも、泣きたいのはこっちのほうです。
村を焼かれ、手足をもがれ、それで奴隷の身に落ち、それでもなお不要だと言われ罵られ続けなければならないなんて……。
この運命を、呪うことしかできません。
「お前のようなのはな、性奴隷にもならねえ。まったく、いらねえんだよ」
私には口を開いて言い返すことさえできません。喉もやけどで焼けただれてしまっていました。
今すぐ舌を噛み切って死んでやろうかとも思いますが、それもままなりません。
必要ないのなら殺せばいいのにとも思いますが、それもできないようです。
奴隷商人は法律上、欠損奴隷でも勝手に処分はできないのだそうです。
自分の奴隷としてしまえば処分することも可能だそうですが……。
詳しいことはよくわかりません。
こんな私でも、一応物好きな人が買って行ったりすることはあるそうです。
ですが、待てど暮らせど、そんな日がくる気配はありません。
それに、どうせ買われたとしても、ろくな目にはあわないでしょう。
そう思っていたある日――。
私を買おうという、物好きな方が現れました。
エルドという名のそのお方は、まだ子供でした。
ですが、なにかに燃える、はっきりとした意思を感じる目線で私をみつめてきます。
最初、家に連れて帰られ、なにをされるか不安でした。
ですが、その不安はすぐに吹っ飛びます。
「よし、今からお前に回復魔法をかける。これだけの傷だ。かなり時間はかかるが、じっとしていてくれよ?」
え……?
回復魔法……?
それも、奴隷である私に……?
ご主人様が自ら……?
最初、言っている意味が分かりませんでした。
ですが、ご主人様が回復魔法を使いだすと、すぐに心地よくなって、私の身体が癒されていきました。
ご主人様は長い時間をかけ、汗を流しながら、私の顔と声を治療してくださいました。
そのお姿に、私は感謝と感動で、胸がいっぱいになりました。
奴隷のためにここまでしてくださる方がいるなんて……。
私には、彼が神様にしか見えませんでした。
「す、すごい……! 本当に治りました……! ご主人様はすごいお人です……! ありがとうございます! 感謝してもしきれません!」
「まあな……って、おお……なんだ……めっちゃ美人じゃん」
「はわ……わ、私が美人ですか……!? ありがとうございます……」
私は不覚にも、その言葉で恋に落ちてしまいました。
エルド様は年頃の男性。しかも、お顔もとてもカッコいい。
それに、私のために命がけで治療してくださいました。
そんな男性に美人だと言われてしまって、惚れるのはそこまでチョロいでしょうか?
これまで、私はもう女としては……いえ、人間としての自分をあきらめていました。
こんな焼けただれた顔では、もう誰も愛してくれない。私は愛を知らずに死ぬのだと。
しかし、その顔を元通りにして、しかもキレイだと言ってくださったのです。
ご主人様――神様による奇跡は、それだけではありませんでした。
「じゃあ次、右手から生やしていくぞ」
「は、生やす……!? そんなことまでできるのですか……!?」
「待ってろよ……」
なんと、ご主人様は私の手足までも生やしてくださったのです。
ご主人様の回復魔法は、あきらかに普通のそれとは違いました。
普通、回復魔法でここまでの効果を出す人は、エルフにもなかなかいませんでした。
軽い傷を治すなどの回復魔法と比べ、腕を生やすなんていうのは、桁違いに難しいことでした。
しかも、難しいだけではなく、体力、気力、魔力もそうとうに消費します。
下手をすれば、術者の命にもかかわることです。それは、ご主人様にいくら才能があっても……。
それなのに、自分の身をかえりみずに、私にここまで尽くしてくださった。
奴隷である私が、この方に尽くさないでどうするか。そう思いました。
私は奴隷として、このご主人様に一生、すべてをささげてお仕えしようと心に決めました。
「うう……」
「どうしたんだ? まだ痛むのか?」
「ぐすんぐすん、うぇっうぇっ。違うんです。私なんかのために、ご主人様がここまでしてくださったのがうれしくて……! またこうやって歩ける日が来るなんて、夢見たいです! 私、ご主人様に飼われて本当に幸せです。一生お仕えします!」
「それはよかった。俺も、アーデとずっといられたらって思うよ」
思わず、私は子供のように泣きじゃくってしまいます。
そんな私を、まるで恋人のように優しく抱きしめてくれるご主人様。
奴隷である私を、ここまで大切に、人間扱いしてくださるなんて……。
もはやすべてをあきらめていた私に、ご主人様はもう一度人生をくださいました。
この命、すべてご主人様に捧げようと思います。
私はその後ご主人様に抱いていただき、本当に幸せでした。
もはや愛を知ることもあきらめていたのに、ご主人様に女として愛され……。
こんな幸せはありません。
こんなに幸せでいいのでしょうか。
しかしご主人様は、決してその行為を誇ることなく、おごることなく、あくまで謙虚なお方です。きっと恥ずかしがり屋なのでしょう。
「勘違いするな。俺はただお前を奴隷としてこきつかうために治療しただけだ」
そんなふうにおっしゃるご主人様も、また素敵です。
私が重みに感じないように、そう言ってくださっているのでしょうね。
本当に、すばらしい方に買っていただけたと思います。
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