第9話 束の間
間宮さんは玄関で誰かと話しているようで、ピザを2箱と大きな紙袋を下げてリビングに戻ってきた。
「洋服も持ってきてもらったから、脱衣場で着替えておいで。」
「何から何まで・・・すみません。」
手慣れている感じがするのは、こういった事に慣れているのかもしれない。
だとしたら、今更だけど間宮さんは何者なのだろうか?
(さすがに聞きにくいな・・・)
リビングに戻るとピザと飲み物が用意されていて、間宮さんは電話で誰かと話しているようだった。
「おかえり、いま社長に連絡しておいたから。傷病休暇の申請手順が後ほどメールでくるはずだから、1週間くらい休んでいいと思うよ。」
その後ピザをつまみながら、社長は間宮さんの能力や体質を知っている事、そもそもその力がきっかけで社長と知り合い入社することになった、という経緯を話してくれた。
「不動産業界は事故物件とか、土地がらみのトラブルとかが多いからね。私が部長の役職についているのは、そういったトラブル対応の時に身軽に動けるようにするための措置なんだ。」
「確かに間宮さんは月に2、3回は出張してますもんね。」
「だから社長と取締役の数名は知っているし、今回の件も根回しちゃんとしてくれるから安心していいよ。」
元々は霊能者を仕事としてやっている、というよりは身内や知り合い限定でやっていて、前にいた会社もIT関係の会社だったらしい。
年配の男性とホテルから出てきたという噂は、不動産のオーナーの相談を乗っていただけで、話の内容的に流石に外では話せないからという理由ということだった。
その後は一人で帰るのは不安だろうから、と間宮さんが車を出してくれて東京から僕の実家がある神奈川まで送ってくれた。
来た時は気が付かなかったけれど間宮さんのマンションは青山の一等地にあって、不謹慎かもしれないがやっぱり霊能者って儲かるのだろうか・・・なんてことをふと考えてしまった。
たった3日間だったけれど、とうてい現実とは思えない非日常的な体験を僕は一生忘れないだろう。
「アレは私にも全容は正直わからないけれど、あやかしというよりは呪術に近いのかもしれないね。世の中には触れるだけ、近づくだけで悪い影響を与えるものが意外とあるんだよ。あんなに直接的に影響あるものは、そういないけれどね。」
「それって分かるものなんですか?」
「普通の人には見えないからね、見えないし分からないから人は不安になるんだよ。」
その後、自宅前で念の為と連絡先を交換と間宮さん特製のお守りを貰って、僕は無事に家に帰ることができた。
間宮さんが言っていたように会社の人事部と上司からメールがきていて、僕は体調が優れずに帰宅する際に怪我をしたということになっていた。
また車の中で怪我のほうは整形外科の病院に行くと思うけど、今回の件で影響あるかもしれないから念のため精神科にも行くようにと念を押された。ここの病院で私の名前を出せば、いい感じに診察してくれるからと丁寧にお医者さんの名刺までくれた。
間宮さん曰く、自分は死んだ人間をどうこうすることはできるけど、生きている人間はどうにもできないとのことだった。
僕はやっと日常に戻ってきたのだ。
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