第7話 封印の儀式
もう戻れない、という言葉に不安を覚えはしていたが、とにかく今日中に終わるという情報に僕は少しだけ明るい気持ちになっていた。
ここ数日起きたことは本当に現実なんだろうかと思いながらも、実際に僕の体は傷ついているし、背中の感覚がこれは夢ではないと教えてくれる。
「さて、お風呂場には結界を張って準備ができたから、封印の手順について説明するね。」
結界・・・と言われても、湯船に水が張ってある以外は特に何も見当たらない。
「あの・・・結界ってよくある縄とか、塩とかあると思うんですが・・・?」
「そこもちゃんと説明するね、まず結界は私がいる脱衣場と君の間にひとつある、これは私の気配を”アレ”に悟られないようにするためのもの。もう一つは君を囲むように張ってある、これは”アレ”が君に攻撃できないようにするためのもの。」
説明されたところで、あまりピンとこない。
「見えてないだけで、結界はここにちゃんとあるんだよ。よく使う縄や盛り塩も効果が全くないわけではないけど、どちらかといえば人にとって見えることが大切なんだ。」
間宮さんは木で出来た小さな箱を開けて、湯船に潜らせてから蓋をだけ僕に渡す。そして箱の中には血のついた布をいれて、浴槽の横に丁寧に置いた。
特に何をしているというわけでもないのに、間宮さんの動きがさっきとは違う気がする。柔らかいような、可憐なような、なんと表現していいのだろうか。
「浴室の窓から”アレ”が来るはずだから、ここで待っているだけでいい。”アレ”が来たら君のところに辿り着く前に、湯船の横の箱に吸い込まれる感じで入っていくから、”アレ”の全身が入ったタイミングで、君は箱の蓋をかぶせて閉じる。」
「えっ、僕が蓋を閉じるんですか?」
そして僕を囮にするんですか?って言いそうになったが、そこはぐっと堪えた。
もし結界が破られてしまったら、もし”ソイツ”の封印に失敗したら、僕はやっぱり死んでしまうのだろうか。
「私は負け戦はやらないよ。」
こんな状況でも間宮さんはにこにこと笑っていて、その様子に少し緊張が和らいだ気がした。
(蓋をしめるだけ、蓋をしめるだけ、蓋を・・・)
「そろそろお風呂の窓を開けるね。30分以内には来ると思うけど、私の気配を感じると逃げちゃうと思うから、”アレ”が来るまで声だしちゃだめだよ。」
「はい・・・。」
間宮さんがガラッと窓をあけて、こちらをじっと見つめる。目を閉じてはいないが、僕を見ているわけでもなく、かと言ってお風呂場を見ているわけでもなさそうだ。
蓋を持った手がかすかに震える。
10分くらい経っただろうか、いや本当はもっと短かったのかもしれない。急に窓がガタガタと揺れ始めた。
(来たのか・・・?)
そう思った瞬間に”ソイツ”は風呂場の中までものすごい速さで飛んできた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!来るな!来るなぁ!」
もうダメだと思った瞬間、お風呂の水が柱のように浴槽から天井まで噴き上げる。
「ピギャァァァァァ」
浴室に”ソイツ”の悲鳴のような音が鳴り響く。
あまりに非現実的な光景に混乱しながらも、僕は間宮さんに渡された蓋をぎゅっと握り締めた。
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