第6話 準備
(お風呂場で何をするんだろう・・・)
朝から色んなことがあったせいで、時間の間隔があまりわからなくなっていたが、スマートフォンの時計を見るとは14時を少し過ぎたところだった。
腕の傷と背中の傷がキリキリと痛み出した。あまり大きな怪我をしたことはないが、普通の傷とは違う気がして不安になる。
「傷が痛む?」
ふと顔をあげると間宮さんが覗き込んでいた、心配するというよりは観察をするような表情で僕の後ろの方をじっと見ている。
「そうですね、なんか変な痛み方というか・・・」
「その傷はね、”アレ”にとっては
渡されたのは市販の痛み止めで、拍子抜けしてしまった。
「こんなので痛みが治るのか、って顔しているね。痛み止めっていうのは、脳に作用するものがあって意外と有効な手段なんだよ。失恋の痛みにも効くくらいだからね。」
「そういうものなんですか・・・」
ふふふっと笑う間宮さんは水の入ったコップをくれた後、別の部屋へ行って何かを準備しているようだった。
ぼーっと天井を見ながら痛みに耐えていたが、気がつくと痛みが治まってきてうとうとしてきた。
どこからか、お香のかおりがして心地よい。
「痛みはひいたかな?」
気がつけば目の前に間宮さんが白いワンピース姿でいた。こうやって私服をみるとスーツ姿の時とは違ってすこし幻想的な、不思議な雰囲気を感じる。
「幽霊の場合は浄霊っていって説得したり、思い残すことを解消してあげることで天界に上げることが多いんだけど、”アレ”の場合はこの世界にちゃんと存在しているものだから天界には上げれない。そして君とその傷で繋がってしまっているから、お祓いをしてもまたすぐ戻ってきてしまう。だから今回は封印をすることになる。」
「それで僕は助かるんですか?」
しばしの沈黙が流れる。
間宮さんは笑顔で話してくれているが、いままで幽霊も妖怪も信じたことがない僕にとって、いまだに現実感があまりなかった。
「水無月
「それは・・・霊視ってやつですか?」
「残念だけど視たわけじゃない。君の所属する情報システム部と私の所属する情報企画部は、共同ブロジェクトもあるからね。部長同士で所属するメンバーの情報は共有してるんだ。」
「でも、それが今回の件と関係あるんですが?」
「君はすごく運がよかったんだよ。”アレ”を見るだけで発狂してしまう人が大半だし、万が一逃れても傷だらけにされて追い詰められちゃうんだよね。君の家系は女性がとても強くて霊や妖怪に耐性があるようだから、家では手出しができなかったんだと思うよ。」
「まぁ確かに姉達は強いかもしれませんね。」
幼い頃から姉達の言うことには逆らえないし、幽霊どころか人間ですら圧倒する雰囲気がある。その姉達のわがままを一身に受け止めていたせいか、僕は学生の頃から女性の扱いに慣れ過ぎていると言われることがあった。
「今の状態がベストに近いルートなんだ。だから君の命は助かる。」
「そうなんですね、よかっ・・・」
「でもね、もう”アレと出会う前の君”には戻れない。だから助かったと言えるかどうかは、解釈次第かもしれないね。」
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