第27話 誘い
芽吹とは、実に慎ましい写真を撮った。単純に二人で並び、恋人よりは遠い距離感だった。
ついでに、最後に俺がカメラ役となり、歌弥さんと芽吹の写真も撮った。歌弥さんは芽吹相手でも相変わらずテンションバグっていて、腕を組んだり、抱きついたりしていた。芽吹は呆れていたものの、疎ましさまでは感じていなかったようなので、よしとしよう。
撮影の後には、屋台が立ち並び、休憩用の机と椅子が設置された一画に赴いて、食事をした。味については特筆したところはない。普通に美味しかった、というところ。
ちなみに、いつも酔っぱらっているような雰囲気の歌弥さんだが、お酒は基本的に飲まないらしい。お酒を飲める年齢になる前から、お酒はシンプルに体に毒だという話は知っていたので、飲まないことにしているのだとか。この辺は意外とストイック。
食事をしながらと、した後には、夜桜に囲まれながら三人でゆったりとおしゃべりをした。
話題としては、俺と芽吹の高校時代のことをが多かった。
そうするうちに時間が経ち、午後九時に会場が閉まるので、俺たちも帰路についた。
「今日は秋夜君のおかげで助かったよー」
途中で歌弥さんがそんなことを言った。
「なんのことですか?」
「秋夜君のおかげで、余計な心配をせずに夜中に出歩けたし、夜桜見物にも行けたって話だよー。
男の子だとあまり意識しないかもだけど、女性は夜に一人で出かけることをなるべくしないし、ああいうイベントにも行かない。女性二人でもそうだねー。犯罪とか、ナンパとか、面倒ごとに巻き込まれやすいからさー」
「ああ……そうですよね。確かに」
「だから、秋夜君には感謝だよ。あたしたちのボディーガード、ありがとー」
「……ただ隣にいただけですよ」
「大人になると、ただ隣にいてくれる相手を見つけるのも一苦労なのさー。特に異性だとねー」
「……言われてみれば、そうかもです」
「改めて言うけどさー」
「なんですか?」
「勝手にいなくなっちゃ、嫌だよー」
「……そんなことしませんよ」
歌弥さんが望んでくれる限りは、俺は歌弥さんから離れるつもりはない。
望んでくれなくても……できれば一緒にいたい。いや、これは単なるストーカーか。
「星香君!」
「あ、うん? どうした?」
芽吹が俺の袖を引っ張る。
「あの、わたしからも、ありがとね! 夜桜見物、楽しかった!」
「ああ、うん」
「それにさ、今日、星香君と再会できて、本当に良かった! 見知らぬ土地で一人になって心細かったんだけど、星香君が身近にいるってわかって安心した! 変な話だけど……星香君が家出してて、良かった」
「……結果的には、な」
「うん。結果論だけどね」
「そっちはもうすぐ入学式……。大学生活、頑張って」
「……うん。頑張る。星香君がこの先どうするかはわからないけど、応援してる!」
「ありがとう」
「まずは歌弥さんのパートナー、頑張って!」
「うん。やれるだけやってみるよ」
そんな話をしながら、俺たちは自宅マンションの最寄り駅に到着。
それから、まずは芽吹のマンションに寄って、芽吹はスマホ回収し、着替えなどのお泊まり道具も準備。……本当に歌弥さんの家に泊まるつもりらしい。
三人で歌弥さんの自宅に到着したら。
「千花ちゃん! 一緒にお風呂入ろー!」
歌弥さんが言い出して、二人は仲良くバスルームへ。
二人はシャワーを浴びながらイロイロとはしゃいでいたようで、変な妄想を駆り立てるワードが飛び交っていた。その間、俺はイヤホンで音楽を聴いていた。
湯上がりの歌弥さんを見るのは初めてではない一方、芽吹の湯上がりを見るのは初めて。パジャマ姿も初めて。少し、照れる……。
「あははー。秋夜君、千花ちゃんのえっちぃ姿に照れてるー」
「……そういうの、いちいち指摘しないでください」
「照れてる姿があまりに可愛くてさー」
「……俺も風呂入ります」
浴室に向かおうとしたところで、芽吹に手を引かれる。振り返ると、気恥ずかしげに視線をさまよわせる芽吹が言う。
「……星香君は、わたしにも、ドキドキしたり、するのかな?」
「それは……うん」
「……そっか。良かった」
はにかむ姿が眩しい。芽吹から視線を逸らし、俺の袖を掴む手も押し返して、俺は浴室へ向かった。
この部屋に脱衣所はない。一応、扉一枚で廊下と生活スペースは隔てられているが、服は浴室内で脱ぐことにしている。
服を脱ぐ前に、ふぅ、と軽く溜息。
「……この後、本当に三人で寝るつもりなのか? 俺だけ床じゃダメ?」
二人に挟まれて寝るなんて……できる気がしない。
先に処理をするべきか……。
「あ、秋夜君! 一人でするとかなしだからね! そんなことしたいなら、ちゃんとあたしたちで発散させること!」
歌弥さんからいらないお達しが来てしまった。
……もう、どうなっても知らん。
風呂に入り、体を洗って、生活スペースに戻る。すると、歌弥さんが楽しそうに、芽吹が恥ずかしげに俺を見た。
「ちょっと早いけど、もうベッドに入っちゃおうかー?」
歌弥さんが挑発的に言った。
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