《 第2話 》鈴と狐

「つた婆さんいってきまーす」

「はいはい、気をつけていってらっしゃいな」


新学期。

慣れた制服を身につけて、

昨年買った赤い自転車にまたがる。

呉羽 凪。中学3年生。

今日から受験生がスタートする。

そして同時に、自転車をスタート。

春の生暖かい風が吹く。

「ふんふふ~ん♪ふん~ふふん~♪」

鼻歌混じりで自転車をこいで、いつもの大きな坂道を通る。

次々に田舎町と美しい海の景色が後ろに回っていく。

「今日は確か数学のプレテストだった気がー…」そんな事を思い出して、

勉強していなかったことにまた自分へ失望。

この状況で自分は本当に受験生なのか、

思わず疑う。

はっきりと美しい海が見え始めた時、

それは聴こえた。


'' …ーチリン、、チリンー…''


一瞬自転車のベルの音と思い、周りを見渡す。

しかし、自転車もなければ私以外に人すらいなかった。

「聞き間違い、、?」

自転車のスピードを少し落とし、周りに警戒しながら進んで行く。

すると再び、


'' チリンチリンー… ''


今度ははっきり聴こえた。

また周りを見渡すが、やっぱり何もいない。

「…なんだろ、とうとう私幻聴まで聴こえるようになったのかな」

周りを見渡しながら再び自転車を進めていると、自転車に変な衝撃を感じて止まった。

「なになに!?」

一旦自転車を降りて、前輪のタイヤを覗いてみた。

「えっ、 …な、な、、なに、、、こ、れー…、、」

よく見てみると鈴のようなものだった。

しかしそこから黒いような紫のような煙がもくもくと出てくる。

どんどん出てきて、この不気味な煙が止まる気配なんてなかった。

するとさっきまでただの煙だったものが、

集まって一体になり、何やら大きな物体に形を変え始めた。

私は思わず自転車を支えていた手を離して、

自転車が'' ガシャン!!!''という音を立てた。

その音に驚いたのと目の前のこの状況で、

脚の力が抜けて地面に座りこんでしまった。

「…はぁっ、はぁっ、はぁっ、なにこれなにこれっ、」

そしていきなり勢いよく膨らみ、その物体が完成した。

「…きっ、きっ、、きつねっ、、、?」

狐のような姿で現れたそいつは、

百六十三cmの私の身長より随分と大きく、二つの脚で私たち人間のように立っていた。全身さっきの煙と同じ色をしていて、額には狐の面がついている。

「だっ、だっ、、だれよあなたっ、、、!!!」

私が恐怖しながら狐に向かってこう言うと、

狐は私の問いに答えるような姿勢はとらず

ただただ私を細く不気味なたれ目でじぃっと見つめていた。

かと思えば、さっきまでは閉じていた口が

にぃっと動き、にんまり、にんまり笑っている。



「''獲物 …みつけた''」

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