四時限目②(リョウ視点)

ボールは校舎の手前で止まった。寒空の下、グラウンドの乾いた芝の上を走る。四時間目ということもあってか、朝におりた霜も溶けて蒸発してしまったようだった。ようやく校舎までたどり着いたところで、俺はふと違和感を覚えた。


「……あれ?なんでここだけ芝が青々としているんだ?」

さっきまでいたグラウンドを振り返る。やはりグラウンドの芝は枯れて茶色に染まっていた。とうとうこの学校にも天然芝が導入されたんだと前に乃位が自慢していたことを思い出す。それなのに何故かこの一角の芝だけは、まるで人工芝のようにその緑を生き生きとたたえていた。


「なるほど、サッカーですか」

背後から急に声が聞こえる。反射的に振り返ると、そこに居たのは光陽学園校長、茂永しげながトキヲだった。

「は…はい」

急に校長から声をかけられたら誰だってしどろもどろになると思う。俺も例外ではない。


「いいですね、こんな天気のいい日にはやっぱりサッカーに限りますよね」

「そ…そうですね」

茂永トキヲ校長は独特のヘアスタイルをしている。髪は七三分けならぬ九一分けにしており、ひと房の前髪はキラリと光るメガネの上におかれている。分厚い唇とほんの少しふくれた頬は、その顔に若干の大仏味を帯びさせていた。


「じゃあ引き続き授業頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」

ボールを手にグラウンドへと駆ける。こちらに手を振るクラスメイトに応えながら、俺は今の光景にどこか奇妙な感覚を抱いていた。

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