第2話

 佐々木鈴は誰でも入れると言われた地元の文系大学に在籍しているどこにでもいる女子大生だ。

 高校から一緒に同じ大学に入学した友達たちは、大学に入ったことで垢抜けていったのか、徐々に化粧やら髪色やら派手になっていった。そんな中、鈴はずっと薄化粧、黒髪ショートを保っていた。周りの友達からももっと遊ぼうよと誘われているが、鈴にはどうにもそれらに魅力を感じなかった。


 だから鈴は大学生になっても未だに髪の毛を染めたこともなければ、友達のようにブランド物の化粧品は持ったことがなかった。


 そして何よりも周りと差が生まれたと感じたのは、彼氏の有無だった。

 大学に入学したての時は友達にも彼氏がいなかったのに、気がつけば彼氏を作っており、今では彼氏がいないのは鈴くらいになってしまった。


 鈴は少しだけ羨ましいとは思っていたが、縁がないのだから仕方がないと、少しだけ達観したような考えも持っていた。しかし、やはり今時彼氏いない歴=年齢は良くないのではないかと思い、重い腰を上げてようやく友達に出会い方を享受してもらうことにした。


 そして、鈴のスマートフォンには一つの出会い系アプリが登録されることとなる。


「ふわぁー……これが噂の出会い系アプリというやつですか。」


 スマートフォンの画面に現れた一つのアイコンを凝視しながら鈴は謎の感動に胸打たれていた。その様子を見ていた友人たちは、鈴の反応が大袈裟すぎることを笑いながらも、ようやく鈴に春が来るのかと少しだけ安心のような寂しさのようなものを抱えていた。


 そして鈴はよくわからないまま、とりあえずアプリの指示に従って個人情報を登録していき、見知らぬ男の人たちの画像を見ながら良さそうな人を探した。


 数日後、鈴は適当に男の人の画像にいいねを飛ばしていたらマッチングした複数人の男の人とメッセージのやり取りをするようになった。

 

 それでも、今まで男の人とまともにやり取りをしたことがない鈴はドキドキする心を抑え、ビクビクする気持ちでやり取りを進めた。


『今度の週末、会ってみませんか?』


 一人の男の人から、そのメッセージが届いた時、友人とランチをしていたのにも関わらずスマートフォンを投げてしまい、危うく壊してしまうところだった。目の前でご飯を口に運んでいた友人も驚きて目を点にさせていた。


 鈴は声にならない声を出しながら、投げてしまったスマートフォンを回収してアプリの画面を友人に見せる。そしてそのまま友人に連れられ、服やらアクセサリーやらを買わされた。


 鈴はその男の人への返事を友人に連れ回されて帰ってきた後にした。慣れたと思っていたメッセージのやりとりも、たった一言「いいですよ」と返すだけなのに、今までの中で一番緊張した。

 手に汗を握りながらようやく短い一言で了承の意を伝える。伝えた後は一気に脱力して、ショッピング以上の疲労を感じていた。


 その人は短い文章でのやり取りをする男の人だった。他の人は馴れ馴れしい人もいたり、よく喋る人もいたけれど、今回鈴に会いたいと言ってくれた人は鈴の話をよく聞いて、それでも色んな言葉で話を盛り上げてくれる人だった。


 鈴はスマートフォンの電源をつけて、アプリのトーク画面にある「ユウ」という名前を見つめて、一人笑いをする。こんな所を家族、特に姉に見られたら冷やかされるに違いないが、それでも嬉しくて笑えてしまった。


 人を好きになるという感覚がいまいちよく分からなかったけれど、こうやって何気ないメッセージを重ねるのが楽しいと思う心が自分にもあるんだなと思うと、アプリを始めてみて良かったと思った。


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