それは恋草のように

豆茶漬け*

第1話

 スマートフォンのアラームで朝、余裕をもって起きたはずなのに、気がつけば時間ギリギリになっていた。

 慌てて準備する鈴をリビングで姉が冷やかすように笑っている。鈴はそんな姉に笑わないでよ、と洗面所から怒った。それすらも面白いのか姉はケラケラと笑っている。


 鈴は姉のことを気にするのをやめて、準備に集中する。鏡に映る自分はいつもと違ってしっかりと化粧をして、髪の毛の生え際から毛先まで整えている。そしてお気に入りの可愛い服に身を包んでおり、普段の何倍も可愛いと自分になったと思いたい。

 身長が低い鈴では綺麗でかっこいいお姉さんにはなれないけど、可愛い女の子にはなれてると信じたい気持ちと、自信がなくなる気持ちとが相反する。


「鈴、早くしないと本当に遅刻するぞー!」


 リビングから姉が話しかけてきた。洗面台に置いていたスマートフォンをつけて時間を確認すると、約束の時間まで三十分をきっていた。

 約束の場所まではおよそそれくらいかかるから、鈴はもう家を出てなければいけなかった。


「あぁー!遅刻するっ!」


 鈴はスマートフォンを睨みつけながら慌てて洗面所から飛び出した。そして玄関に予め準備しておいたカバンを掴むと、お気に入りのローファー風の靴を履いて扉に手をかけた。


「行ってきまぁす!」


 大きな声で中にいる家族に鈴は声をかける。姉は手だけをひらひらと出して慌ただしく出ていく鈴を見送った。


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