第5話
「おはよう!」
朝起きても上機嫌な佳奈。
「おはよう」
私もそう返す。
「今日で終わりだねー」
「荷物かたずけなきゃ」
他愛もない話が繰り広げられる。
「みんな忘れ物ないー?」
茜ちゃんがそう言って
「ないよー」
「ないー」
「ないと思う!」
みんながそう返す。もう、この修学旅行が終わるのか、と寂しい気持ちもありつつ、早く家に帰りたいという気持ちもある。
3日目はバスに乗って、北海道を見て周り、お昼には飛行機に乗った。
「この3日間、楽しかったね。」
「そうだね。そういえば、佳奈の彼氏って、誰?」
「だから秘密だって!私眠いから少し寝るね。」
そう切り上げられる。少し不満に思いつつも、私も眠さがあり、私も眠りについた。
「葵起きて、もう着いたよ!!」
「おはよ、もう少しだけ」
そう言いながらがだるい体を起こす。
「はあ、もう終わりか、」
と声がもれる
「早かったよね。」
帰り道で修学旅行のどこが楽しかった、ここのお店美味しかったよねと思い出話を佳奈として家に帰った。
「ただいま」
「おかえり、どうだった?」
「楽しかった、とっても」
「そう、それなら良かった。夜ご飯は?」
「今日はいいや」
そう言い部屋に戻りベットにダイブする
疲れた体をおこし、お風呂に入り、歯磨きをして眠りについた。
アラームがなり、体を起こす。普段通り歯磨きをして顔を洗い、朝ごはんを食べてもう一度歯磨きをする。そうしてから着替えて家を出る。毎日これを繰り返しているのでルーティーン的な感じで体に染み込んでいる。そして今日も
「おはよう!翔!」
声をかける。ここまではいつも通りだった
「おはよ。今日から一緒に登校できない。」
そう聞きたくない言葉が、私の耳に入ってきた。
「なんで?何かあった?」
私は混乱する頭で精一杯考えそう質問をした
「彼女ができた。」
1番聞きたくない言葉。そして、その相手が予想出来てしまうのも辛かった、悲しかった、応援してくれていると思ってた、でも違った、あの子が言っていた、「どういう服装で行くの?」というのも、「最近どう?」というのも全部自分のためだったんだ。今更気づいても遅い。信じていたのに、と悲しみと怒りが込み上げてくる。声を振り絞って翔に
「そっか、大事にしてあげてね。」
と返す
「おう、それじゃ。」
と言って先に行ってしまう。本当は待ってと声をかけたい。好きだと伝えたい。私の彼氏になって欲しかった。1歩遅かった。辛い。悲しい。今なら、死んでもいいかもしれない。そう思った瞬間、目の前が歪み出し、段々と暗くなっていった。
「付き合ってください!!」
「ごめん。俺好きな人がいる。」
「そんなこと、言っていいの??」
「どういう事だ」
「私、知ってます、翔くんの、秘密」
「誰から聞いた。」
「それは言えませんね、付き合ってくれるのなら、秘密もばらしませんし、葵にも危害を加えません。」
「分かった、付き合う、」
少し躊躇いながら俺は言った。
俺の秘密、それは葵の祖父を俺の父親が殺したこと。
殺したと言っても、事故だった。俺の父親が運転する車とぶつかって亡くなってしまった。当時小さかった俺らはそれを聞かされてなかった。葵は祖父が死んだことをすごく悲しんでいた。それを聞かされた俺はすごく悔やんだ、父を殺したかった。でも、それでも育ててくれた父を殺すことは出来なかった。葵、ごめん。葵のおじいちゃんも本当にごめんなさい。何度も何度も謝った。これを葵に言ったら嫌われるんじゃないかって、葵のお母さんにもお父さんにも謝りに行った。何度も謝ってるうちに葵には伝えない、ということを約束してくれた。
「彼女ができた」
こんなこと言いたくなかった。好きだって伝えたかった。俺の彼女になって欲しいって。なんでそんな悲しそうな顔するんだよ。諦めきれねえじゃねえか。諦めるって決めたのに。これ以上ここには居られなくて、俺は先に学校へと向かった。
「葵ちゃんが倒れたって」
それを聞いたのは学校が終わり、帰ってる途中に母親から電話が来てからだった
「葵ちゃんが通学路の家を出てすぐのとこで倒れたって。あんた、一緒に登校してたんじゃないの?」
俺はその言葉を聞いた瞬間怒りと悲しさで心を支配された。
「母さん、葵が運ばれた病院は?」
「神崎大病院らしいけど、すぐに病院から出て、海外で手術を受けるって」
俺は自分が憎くなった。葵が手術を受けなきゃならない病気を持っていたのに気づけなかったこと、見放したこと。全てに関して怒りが込み上げてきた。
「俺、どうすりゃいいんだ」
泣きそうな声でそう言う。泣きそうなのは葵だよな、辛いのに、見放してしまった、まだ日本に居るだろうか、走って葵の家に向かった。
ピンポーン
「はーい。今行きます」
「あら、翔くん。どうしたの?」
「葵、まだ居ますか、」
息が整っていない状態でそう聞く
「まだ病院よ。もうすぐ主人と海外に出るわ。なにか葵に用でもあった?」
「いえ、すみません、葵に直接言いたくて、」
「ごめんなさいね、また戻ってきた時に2人で話すといいわ」
「分かり、ました。ありがとうございます。」
悔しかった、悲しかった。なにより、情けなかった。秘密をばらすよなんて幼稚な脅しで付き合ってしまった、突き放してしまった、俺は後悔と怒りで涙を流した。
朝起きると目が腫れていて、学校に行く気がしなかった。暫くはこんな日が続いて、不登校気味だったが、そろそろ行ってこいと父親から言われたので、今日は仕方なく、行くことにした。
毎朝、おはよう!と話しかけてくれた葵はもう居ない。今頃手術を受け終え、どこか違うところで同じ1秒を過ごしている、そう考えるとやっぱり悲しい
俺が学校に着くと
「おはよう!やっと来たかよ!」
「おはよう!何してんたんだよ!」
「おせーよ」
等の声が飛び交う。俺は
「ごめん。サボってた」
と笑って返し席に着く。
昼休み、俺は佳奈を屋上に呼び出した。
「ごめん。別れてほしい」
「は?無理に決まってるじゃない。秘密ばらされたいの??」
「ばらしたいならばらせばいい」
「そう、なら別れましょう」
そう言って佳奈は行ってしまった
それから佳奈が俺に話しかけてくることも無く、秘密をバラされることもなかった。
卒業まであと3日、葵は帰ってくると信じ続けて俺は待った
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