第3話

「ただいま」

何とか声を振り絞っていつも通りの声を演じた。だがダメだった

「おかえり」


母は私の帰りを待っていたように玄関に立って待っていた。

「なんで、泣いているの?」

そう、優しい声で聞かれ私は戸惑った


「葵に話さなきゃならないことがあるの。」

私はそう言われた瞬間、なんのことかすぐに理解出来た。

「うん。分かった」

笑って返したつもりだった。でもやっぱり気持ちは顔に出てしまうらしい


「葵、もしかして、聞いてた?」


「なにを?」

精一杯頑張って作った笑顔。もし知ってるって言ってしまったら、何と言われるだろう。「癌なんて持ってる葵なんて産まなきゃよかった」と見放されるかな。不安が高まり涙が出そうになる。


「知ってるんでしょ?」


責められた気分になり、涙が溢れてしまう。


「ごめんね。不安だよね。私葵を連れて外国に手術を受けに行こうと思うの」


外国に?そんなに重い病気なの?日本で手術すればいいんじゃないの?と不安が爆発し、涙が止まらなくなる。


「ごめんね。十分な体に産めなくて、代われるなら代わってあげたいよ」

と母も泣きそうな、消えそうな声でそう言った


「ごめん。気持ちの整理、つけてくるね」


そう言って私は部屋に戻った。


今まで隠してきた。母にも佳奈にも翔にもバレないように、隠してきた。バレたくなかった。気を使われるのが嫌だった。どうしよう、無限の不安が押し寄せてくる。死にたくない、まだみんなと思い出を作りたい。まだ、みんなといたい。あの教室に、あの学校に、この街にまだ、残っていたい。それが私の答えだった。


「お母さん」


「葵。どうしたの?」


「さっきの話だけど。」

私がそう言うと、母は夕食の支度をしていた手を止め、目を合わせて真剣にこちらを向いていた。


「私、まだここにいたい。」


「分かった。いつまでここに居たい?」


「せめて、卒業までかな。」


「分かった。楽しんでね。」


「うん。ありがとう」

そう言い残して私は部屋に戻った。

「卒業までなら、大丈夫よね。1ヶ月はまだ余ってるはずだから。」

母はきっと私に聞こえないように言ったつもりだったのだろう。私にははっきりと聞こえていた。


私はあと5ヶ月しか余命が残っていないという事実を知り、絶望に叩き落とされた。もっと余命があるもんだと思っていた。そもそも余命なんて信じられない。本当に4月まで生きれるのか、不安でたまらなかった。不安で沢山泣いた。


ふと目を覚ますといつの間にか朝だった。泣いてそのまま眠ってしまったんだとすぐに理解する。


スマホを開くと10:00の文字と土曜日の文字。今日が土曜日だったことに安心する。通知が1件来ていて、開くと佳奈からのメッセージだった


【おはよう!昨日の埋め合わせだけど、明日とかどう?空いてるかな?】


私は


【おはよう!明日空いてるよ!】


とだけ返しスマホを閉じた



今日はただただ暇な1日で、ゲームをしたり、少し泣いたり、寝たりして過ごし、明日に備え少し早めに寝た。



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