第21話:突入
スキル<超越者>。その効果は、レベル制限の解放だ。これにより最高レベルが九九から九九九九になる。ぶっちゃけ、ゲームバランス崩壊の元である。
<超越者>は特殊なスキルで、一回のプレイで一個しか入手できず。一度付与したら剥がせない。多くの場合、主人公に付けることになる。レベル九九以降は新しい魔法やスキルを覚えることはなく、ひたすら能力値だけ上がる。そもそもクリアレベルが七〇くらいなので、趣味の領域に突入するスキルとも言われていた。
それが今はとても欲しい。ラスボスや隠しボスを倒して終わらない上に、運命に抗おうとしているオレにとって、能力値は高いほど助かる。
「ふむ。定命の者にとってはそれほど価値のあるものには思えんが」
「普通はそうでしょうね」
この世界の常識的に、達人が人生をかけて到達できるのがレベル八〇くらいの三次職。そんな中じゃ、人間に『超越者』なんて意味がないように感じてもおかしくない。
「つまり、普通でないことをするわけだな?」
「はい。面白いものをお見せできるかと」
オレの答えに満足したのか、クラム様は満足気に頷いた。
「よろしい。其方に<超越者>の封技石を授けよう」
「定期的に報告でもしにくればいいですか?」
ウィザードになれば、移動魔法を覚える。たまにクラム様に会いに行くくらい出来るようになるはずだ。
「それには及ばぬ。妾の方で色々と用意しよう。なに、戦乱の時代になりつつあるというだけで、なかなかの情報なのだ。少し多めに手を貸すくらいはしてくれよう」
「ありがとうございます」
オレが礼を言うと、クラム様は立ち上がった。つられてオレも横に立つ。頭一つ背が低い。あと、露出度高いから、上から見下ろすと凄い光景が見える。
「では、戻るとするか。妾の服を覗いてたのは黙っておいてやるからの」
「本当にありがとうございます」
礼を言った瞬間、オレの視界は暗転した。
○○○
「マイス君! 良かった!」
謁見の間に戻るなり、フォミナに抱きつかれた。衣服越しに柔らかい感触が……とか一瞬思ったが、彼女の顔を見てさすがに真顔になった。
「ごめん。心配かけた。大丈夫、なにもされてないよ」
「本当? 良かった、良かったよぉ……」
フォミナは泣いていた。オレからすればクラム様は話のわかる吸血鬼だけど、彼女からすれば凄まじく強力なアンデッドの親玉みたいなもんだ。心配しない方がどうかしてる。
「後でもっとちゃんと謝らせてくれ。振り回してごめん」
「……いいんです。無事に帰ってきてくれたなら」
「そろそろ、話に戻って良いか、二人とも」
声の方を見れば、ニヤニヤと笑ってこちらを見るクラム様がいた。
「セバス、あまりこの娘を脅かすでない。妾が客人をそのまま下僕にするなど、滅多にないであろうに」
「はっ、失礼致しました。しかし、クラム様はマイス様を気に入ったように見受けられましたので」
「うむ。気に入った。ふられたがの。だが、それもまた良し」
「クラム様がご機嫌でなによりです」
恭しく頭を垂れるセバスさん。まさに忠実な従僕だ。
「セバス、今からいうものを宝物庫から持ってくるが良い。マイスには妾の新しい遊び道具になってもらう」
いくつかのアイテム名を伝えると、セバスさんはその場からすっと溶けるように消えた。あの移動、吸血鬼のスキルなのかな。ちょっと欲しい。
「マイス君、遊び道具って?」
「大丈夫。そんな危険じゃないよ。クラム様がオレの目的を支援してくれることになったんだ」
「支援? この人が?」
「妾もマイスの目的を聞いて、その行く末を見たいと思った。それでよいか?」
「……はい」
クラム様の説明に、フォミナは頷いた。
セバスさんは十分もしないで戻ってきた。
「では、其方らにいくつか妾の宝物を授ける。まずはこの封技石、マイスよ、もっていくがいい」
「ありがとうございます」
クラム様の手から、青色に輝く封技石を頂いた。やった、これで色々楽になる可能性が出た。
「フォミナにはこれだ。古代の聖印である。お前を守ってくれるであろう」
そう言ってフォミナに手渡されたのは、今持っているのと似たような聖印だった。ただ、形がちょっと複雑で、不思議な気配を感じる。たしか、聖職者の全ステータスアップに耐性付与の強力なアイテムだ。
「す、すごい。なんでこれがクラム……様のところに?」
「長く生きていると何でもないものに価値がでるものよ。妾はアンデッドでないゆえ、扱うことはできるが意味がない。お前が持つ方が良いであろう」
「あ、ありがとうございます! でも、なんで私にまで?」
気に入ったのはマイス君だけでは、と言外にフォミナがいうと、クラム様は小さく笑った。
「お前も気に入ったのだよ。マイスについていくその度胸と覚悟がな。機会があれば、セバスではなく妾も話したい」
「はい……是非」
先ほどまで敵だと思ってた相手に気に入られて毒気を抜かれたような顔つきで、フォミナが言った。
「そうそう。あまり油断しない方がいいぞ。マイスはこれでいて興味深い男だ。どこぞの女に持って行かれるかもしれん」
「……っ!」
急にフォミナが顔を赤くした。なんかオレがモテるみたいなこと言ってるけど、そんな事実はない。その予定もない。
「さて、最後にそれぞれ二人に、この日記帳を渡そう。これは連環の書というものを真似した道具でな。書いたことがこの三冊で共有される」
そういって、手帳サイズの日記帳を渡された。
「三冊ってことは。一つはクラム様が?」
「左様。二人で日記を書くがよい。それで妾を楽しませろ」
なるほど。それがオレ達からクラム様への料金か。日記を書くくらい、やってみせよう。
「これも悪くない品だぞ。ページの切れ端をもっておけ、危ないときに「たすけて」と書けば、妾が手を貸すかもしれん」
「心強い品、ありがとうございます……」
保険が手に入ったみたいでかなり嬉しい。ピンチ時に書けるか怪しいし、クラム様が来るかも怪しいけどな。
「さて、今日は久しぶりに沢山話して疲れた。二人ともセバスに送ってもらい、帰るが良い」
最後は割とあっさり目な感じで、クラム様との邂逅は終了した。
○○○
セバスさんは万能執事なので、転送魔法でミレスの町まで送ってくれた。
色々ありすぎたオレ達は疲れ果てていたので、この日はそれで解散。宿に戻ってゆっくりと休んだ。
そして翌朝。ぐっすり眠ったオレは『白い翼』亭の一階でのんびりと朝食をとっていた。朝のタイミングはオレとフォミナは別々なことが多い。タイミングよく居合わせれば一緒に食べるけど。
いつもはフォミナが先に食事をとってるけど、今日はオレの方が早かった。よっぽど疲れたんだな、と思いつつ朝食のパンにバターを塗る。
「おはようございます。ちょっと準備に手間取って、遅くなっちゃいました」
聞き慣れた声と共に現れた人物を見て、オレは声を失った。
「フォミナ、あの、それ……」
「はい。気分を変えてみようかと。どうです、似合いますか?」
オレの前に現れたフォミナは、お下げをばっさりカットして、ボブカット風の髪型になっていた。眼鏡はそのままだが、前髪を髪飾りで押さえたりと、別人かというくらい印象が変わっている。
「……すごく、可愛い、です」
ぎこちない口調で、オレはどうにかそれだけ絞り出した。
「良かった。私も朝ご飯を頼んできますね」
そういってカウンターに朝食を頼みに去って行くフォミナを、オレは呆然と見送った。
髪型チェンジは、フォミナの個別ルート突入の証拠だ。
これ、多分相手はオレだよな。いつの間にこうなったんだ?
オレの疑問をよそに、ご機嫌な様子のフォミナが朝食プレートを手に向かいの席に着いた。
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