第21話-vs第一小隊②
近接戦闘で五分も打ち合うというのは珍しい。
銃撃戦であれば身を隠すなどして躱せるが、ナイフの殴打ではそうはいかない。一手が文字通り命取りとなるのが殺し合いというものだ。試合とは消耗度も段違いである。
ティスを支えているのは他ならぬ彼女の経験だった。生き残るための一手を模索し続けた過去が役立っていた。
通常、オフナーマの戦いは先に見つけたものが制するという。どんな戦士でも先手を取れば六割は勝てると言われるほどだ。故に情報が非常に大切だった。ティスたちの初戦はまさにその好例だろう。残りの四割、互いの場所が割れれば、長くは続かない。
が、今回は別だった。その理由は実力が拮抗しているからではなく、お互いにミスがないからだ。五分続いているのがその証拠である。
極度のプレッシャーの中で最高のパフォーマンスを続けるのは不可能に近い。実力が拮抗していても、隙があればいくらでも突き崩せる。
だが、ティスとエテルノはそうならなかった。鋼がぶつかり合い、削れ、切り裂き、抉れる。それでも両者共に動きは最初と変わらなかった。むしろ、良くなってきている。
最高潮に達した実力を披露しているにも関わらず、彼女たちは戦いながら話す余裕があった。
「謝罪しよう。ティス、君は強いな」
「どうも。あたしもあんたの強さを思い知ったわ。これはちょっと勝てない」
「何を言っている。ここまで互角にやりあって、それはないだろう?」
エテルノの声が大きくなっている。興奮して自然とそうなってしまうのだろう。
「いいえ、防戦だから続いているのよ」
「何?」
「そろそろ花火の時間よ」
ティスの声は五十七小隊全員に聞こえていた。サポートは健在で、通信妨害はない。そして作戦の進捗は全員に共有されていた。
もう花火は点火している。
慎重に距離を詰めてきたオウカの子機が、背後からソーリャとルリエリの親機にしがみついた。サポートでは考えられない何の武装もない軽量タイプ。
だが、ティスの子機とは違いフレームが厚く推進力を多く積んである。
花火のためだけに用意された子機で、オウカの子機は宙に跳んだ。
急なことで抵抗できなかったソーリャとルリエリだが、彼女らはすぐに子機に命令を下し、なおかつ自分自身も脱出を試みる。
が、そんな隙は天才の前では存在しない。
ズドンズドンと腹の奥から震えるような重低音が二度連続で響き、その後空で花が二つ咲いた。
子機で相手の親機に取りつかせ宙に飛び、ウォルが狙撃できる場所に案内する。それが花火という名の作戦だった。
命名はロートである。芋虫から蝶ではなく、花になった。そう、順当に蝶になってもらっては困る。軍団兵でありながら、彼女らは違う存在なのだ。これから先も咲き誇ってほしい。誰にも伝わらない自己満足の命名である。
「たまやー」
空を見上げながらそんなことを言っていたロートに向かって、自動制御に移ったルリエリの子機が射撃を開始しようとする。
が、照準を合わせる前に、ウォルの子機に破壊された。
ソーリャの子機も、オウカの親機だけで破壊する。
「お疲れ様でした、隊長さん」
「本当だよ、オウカ。ウォルの振りをしながら戦場に出て、物陰にずっと隠れながらティスの子機を操れなんて無茶が過ぎる。隊長使いが荒い。まあ、私が自分で戦ってみようか何て言ったせいだけど」
今ロートが言ったのが、作戦の大まかな概要だった。
エテルノを足止めしている間、ティスは子機を操れない。エテルノの相手で手一杯だからだ。そのことはわかっていたから、ロートに委託した。
エテルノは正々堂々と挑んで来た相手には、親機のみ相手をしてきた。王者の風格という名の癖。つまり敵は三機をティスの親機一人にとらわれていたのだ。
その間に二機多い子機とロートを使ってエテルノ以外を撃破するという作戦だった。あくまでそれは第一案で、子機の動きに勘付かれても、一人増やしていることを隠して温存していたウォルを切り札として取っておくというものだ。
ウォルの親機だけ、最後まで戦っていなかったのである。
予めロートとウォルが入れ替わり、ウォル遠くに配置する。
次にティスがエテルノを足止め。
最後に予めティスの親機から移植した回路で、ロートがティスの子機を操ってさもオウカの子機のように仕向けた。まさか、親機が戦うとは思いもしないのだ。
それからはオウカは子機を相手の親機に取りつけるよう準備を済ませるまで戦闘を長引かせ、周りに気が回らない程度に拮抗させた。
この作戦での不安点は二つ。ティスがエテルノを止められるか、ロートがルリエリから身を隠しつつオウカのフォローに回れるかという点だった。
前者は完璧にこなしていたが、後者はギリギリだった。
ルリエリの対処はウォルが二機の子機だけでやってくれたからよかったが、オウカへのフォローがなっていなかった。むしろ、やられないようオウカがフォローしてくれた。五十七小隊で損傷しているのは、オウカと共に戦っていたロートの操作した子機のみだ。
他にも問題点はありそうに思えるが、五十七小隊の面々はオウカの子機を気づかれず配置するのも、ウォルが子機だけでルリエリの足止めをするのも、誰もができることだと信じていた。
そして作戦は上手くいき、五十七小隊が八機、十三小隊がルリエリの三機となっている。オウカの子機は花火に巻きこまれて大破していたが、数の有利は圧倒的だ。
心配していたアルトアバレーの傍受もなかったらしい。
「悪いわね、エテルノ。あたし個人の勝利なんていらないの。あげるわ。あたしはあんたみたいに欲張りじゃないから、勝利の種類にこだわらないの」
ルリエリはティスに切りかかろうとしたが、既に背後の位置に陣取っていたウォルの狙撃を浴びる。あっという間にコックピットだけになった。
「よかったわね。トドメは大好きなウォルにしてもらって」
ティスの皮肉と共にファンファーレが鳴り響いた。模擬戦終了の合図だった。
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