第20話-vs第一小隊①
船から探知した九機の敵オフナーマは等間隔に三機ずつ配置されていた。
一機も欠けることなく姿を見せている。一戦前の第一小隊とは間反対の姿勢である。
大胆不敵と言える立ち振る舞いに、王者の風格というものをロートは感じた。これが彼女らの歪み、いや個性なのだろう。絶対的な強者としての自尊心。それを守るために、指示に従い敵をなぎ倒してきた。
彼女らは従うことに抵抗がないため、アルトアバレーは彼女らの個性を汲んだ命令を下しているのだろう。そして、それで勝てると考えている。
五十七小隊の降下が完了すると、エテルノの声が響いてきた。
「ようやくだな、ウォル。君と対戦出来て嬉しいよ」
「そんなことを言っているから私に勝てないんだ、エテルノ」
「何?」
「どこを見ている、と言っているんだよ」
ウォルの言葉の直後に、ティスの放つ弾丸がエテルノの足元を掠める。
「今のは外したのではなく狙ったね、ウォル」
「全く、ウォルウォルうるさいわね。撃ったのはこのあたしよ、エテルノ」
そう言って、ティスは平べったいコンビニの上に立った。この世界にもコンビニはあるらしいとロートは愛郷を感じた。
それぐらいにはこの勝負をリラックスして見ることが出来ている。
彼も、彼女らも負けることなど微塵も考えていない。初戦とは別の隊になっている。芋虫はもうとっくに卒業したのだ。
「あんたの相手はこのあたし。正々堂々がお望みでしょ。相手してあげる」
「そんな安い挑発に乗るとでも?」
「あら、かかってきなさいよ優等生。あんたの有用性をこのあたしがテストしてあげるわ」
そう言って、ティスはオフナーマの指を折り曲げした。
「そうか。それはありがたい。ソーリャ、ルリエリ、競争だ。早く前菜を片付けた者が、メインを頂こうじゃないか。先に倒してしまっても構わないが、ウォルとオウカには十分警戒してくれよ。特にウォルは重たいからな」
「はい」
「りょーかい」
敵のオフナーマの活動を確認し、ティスたちも作戦通り動き始めた。
エテルノの獲物は長い剣だった。基本装備以外の配布されている装備にはいくつかの選択肢があり、個人個人自由に選べる。ティスはその代わりに大ぶりのナイフを選んだ人間だった。
エテルノは迷いなくティスへと刃を振るう。エテルノから放たれた斬撃は無慈悲だった。小手先を弄してどうにかしようというものではない。彼女は迷いなく、挨拶をするような気軽さで肩から胴を狙った袈裟斬りを繰り出す。
ティスは懐に飛び込んで、剣に勢いがつく前に止める。振りかぶった剣をナイフで受け止めるのはリクスが高いと判断したのだ。
彼女はすぐに膝蹴りを放ったが、エテルノは右足を軸に半回転して躱した。
その動きで剣は再び自由となる。エテルノは柄でティスの頭を殴り付けようとした。
ティスはそれを寸での所で屈んで避け、エテルノの足元に向けナイフを振るうが回避される。エテルノは柄で殴り付けようとした勢いを活かして前方に移動し、空いた手でティスの肩に手をついて飛び越えた。
両者警戒して距離をとる。数瞬の睨み合いのあと交差した。先に仕掛けたのはティスだった。
「とっとと、くたばれ」
左右の斬撃をずらして行う。交互の攻撃をエテルノは捌く。左は剣で止め、右は上に腕を払って無効化する。払われたことによって体勢を崩したティスを見逃さず、エテルノはローキックを叩き込んだ。
ティスは屈みながら受け、エテルノが足を戻す前に掴んだ。
引っ張って転ばせようとするが、稲妻の如き一閃を回避するために手を離してしまった。
剣は回避したものの、エテルノに踏み込まれ肘をくらう。
軽微なダメージでティスはピンピンとしていた。
「その実力認めよう」
「どうも」
淡白な返事を返したあと、ティスは笑った。
「正々堂々なんて拘るから時間がかかるのよ。子機を使えばいいのに」
「そんなことはしない。それが王者というものだ。求められた勝利こそ我々の勝利なのだ。ただ勝つだけじゃダメなんだよ。求められているのは華々しい勝利なんだよ」
「ほんとご苦労様。あたしには無理だわ」
また交差する。前菜を平らげるのに苦労しているようだった。
ウォルはルリエリと戦っていた。
お互い後衛同士の戦闘。建物に隠れ、狙撃を繰り返している。
ルリエリが撃とうとすると、射撃されて彼女は物陰から出るに出られない。
攻撃の回数で比較するならウォルが圧倒的に勝っていた。ルリエリはまともに攻撃できていない。親機子機共に完全に封じ込めている。
が、両者共に健在だ。勝負の均衡はまだ傾いていなかった。
「まるで天から見ているみたい。こっちはそっちの親か子かも把握できてないのに」
ルリエリの褒め言葉にウォルは弾を届ける。ルリエリが身動き一つしただけで、ウォルは攻撃してきた。彼女が天から見ていると思うのも無理はない。
「そんなことはない。ただ見て撃つだけだ」
「ごめんね、エテルノ。我慢は無理そうだ。待ってなんていられないよ。耐えていたらその前に平らげられちゃう」
ルリエリの叫びを聞いて、ソーリャは欠伸をした。
「あっちは盛り上がっているみたいね。けれどこっちは地味だわ」
こちらもサポート同士の戦いである。
建物の陰に隠れ、親機と子機でサブマシンガンの打ち合いを繰り広げていた。
相手の裏を取ることもなく、ただ銃撃を交わしている。五十七小隊の弾幕が厚いので移動しようにもできないのだ。なので、ソーリャも移動せずに銃撃を放っている。
が、ここは機に損傷がある。五十七小隊側の子機が数発被弾していた。
動きには今のところ支障がないが、今後のことはわからない。
子機の隙をカバーするようにオウカが撃ち、防戦に徹することで現状維持を保っていた。
それがソーリャには退屈なのだろう。
彼女は焦ったりしない。確実に相手を削ぎ落していく。サポートは死なないことが前提のポジションだ。安全を常に考慮するように考え行動している。
五十七軍団のトップだ。基本は体に染みついている。それに加え、全員ウォルの狙撃を警戒して戦闘を行っていた。驕りはあれど、侮りはしない。
そして、そのことをオウカはよく理解していた。
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