第9話-お仕置き
ロートはティス、ウォル、オウカの三人を走らせながら、訓練に敗北した後のお仕置き映像だけを切り抜き、格納庫の壁に投射した。まず現れた映像は水着姿の三人が棒に張り付けにされ、船の上に立てられているものだった。そうなると、目立つのはウォルだ。彼女のプロポーションは抜群なため、どうしても目立ってしまう。
「ウォル。お前は乳と尻を下品にぶるぶる揺らしやがって。慎みを持て」
「はい」
上擦った声でウォルは返答した。悔しいのだろうか。気のせいか、嬉しそうにも聞こえる。いやいや、気のせいだろう。ロートはそう言い聞かせ、次の映像に切り替えた。
今度はオフナーマの指に縄で巻かれたオウカがひっかけられていた。普通は悲鳴なり鳴き声なり聞こえてきそうなものだが、オウカは目を瞑っている。
「オウカ、貴様は何を気持ち良さそうに眠っている」
「申し訳ありません」
ロートは冗談で言ったつもりだったのだが、本当に眠っていたらしい。唖然として言葉を失ったが、次に移る。水着姿で拘束台に固定されたティスが、羽や指でこそばしに合っていた。
「このリテ、ッ、んっふ、ふふ、あははははは」
初めは褐色の肌の少女を睨み付けていたが、我慢できなくなったのか動ける範囲で身をよじり、声を漏らさぬよう口を閉じているものの大きな呻き声が格納庫を響かせる。
「忍耐のない奴め。反応が大袈裟すぎる。これだからチビは子供っぽいのだ」
「ゴー、ナナ、ゴー、ナナ」
ティスは命令されてもいないのに、掛け声を大声で繰り返す。しかし、しっかりとティスの目には怒りが宿っていた。三人目にしてようやくロートの意図通りの効果が見受けられる。画面にお仕置き公開することで、闘争心に火をつけようというものだった。勝てるかどうかでは困る。絶対に勝ってみせるという勢いをロートは望んでいた。
そこで、屈辱的な映像を見せつけられれば怒りもするだろう、と考えたのである。
またもや素人丸出しの策だが、これしか考えつかない以上仕方がなかった。
今流れているのは、前回のお仕置き動画だった。
「あらあら、ティス。本当に弱いわね。流石ポンコツね」
肌が黒く日焼けした女の子が、笑い疲れて荒い呼吸を繰り返すティスの眼前でそう言った。ティスをこそばしていた少女だ。彼女は口角を上げ、甚振るように目を細める。
「言ったでしょう? ティスのような異常者では勝てないのよ」
「次は、勝つわ」
ティスは途切れ途切れにそう吐くと、こそばしが再開された。
四つ目の映像はオフナーマの上で、下着姿でポージングする三人だった。
ふざけているのか、と思うが至って健全である。これが五十七軍団のお仕置きだった。
軍団というのはいくつも種類があり特色があった。様々な軍団があるので、お仕置きの種類も様々だ。第五十七軍団は女性のみが入隊できる軍団だった。
五十七軍団のお仕置きは比較的軽い部類らしい。酷いところはもっと過激な所がある。そんな所に入隊する者は少ないので、必然的に犯罪者などが強制入隊させられるそうだ。
そして、訓練学校の内容の一部は国営放送として放映されているらしい。そこで金を稼げば稼ぐほど、より良い環境になり軍備が増すというシステムだ。軍内部だけでなく、軍そのものが競わされている。
訓練中の不祥事やお仕置きも放映される。中には過激なチャンネルもあって、そちらは全年齢に視聴させるわけにもいかないので有料放送となっているそうだ。グロからエロまで何でもござれという状況である。
第六小隊、第三十八小隊、第四十さん小隊などが過激なチャンネルの中では有名とのことで有料放送でも相当な視聴率を誇っていた。そういう点で見ると、五十七軍団は軽いものだった。過度な辱しめは許可されていないのである。
女性のみというのと、お仕置きや懲罰では傷の残るような暴力や流血は禁止というルールが、ライトなものを見たいという層に人気だそうだ。そのため、五十七軍団の訓練課程というのは、お茶の間で流せるものらしい。もちろん、そうでない映像もあるが編集でカットされている。緩いとはいえ、理不尽は沢山あった。ルールの逸脱はもちろん。
そんな情報をロートは閲覧した。そこで合点がいく。シャワールームを映した時に、自動的に湯気で隠れるのは編集の手間を省くためだろう。全年齢向けのものしか撮れないよう、予めカメラの調整がされているに違いない。それにしてもお仕置きが軽い。
まるで三流バラエティだ、とロートは思う。気が抜けてしまいそうだ。が、叱咤する声には威厳を含ませる必要があった。胃に空気を落とす感覚をイメージし、声を張り上げる。
「なんだ、貴様ら。銅像にでもなりたいのか? それとも彫像か。そのようなものは軍にはいらん。さっさと家に帰ってセメントでも自分に塗りたくっておけ」
「ゴー、ナナ、ゴー、ナナ」
三人の声が格納庫を木霊する。声に迫力が宿っていた。少しは軍隊らしくなってきたのでは、とロートは自画自賛するのだった。
訓練が終わり、ティスたち三人はシャワールームへ移動した。
もちろん、ロートも追う。彼女らのシャワーシーンが見たいからではなく、情報収集のためだ。邪念は欠片もないということになっている。
今日のロートは移動から付いていったので、三人は服を脱いでいた。
「隊長ってば、リテッソみたいなことをしてきて。もう」
一番初めに愚痴をこぼしたのはティスだった。服を脱ぐのも乱暴だ。訓練中から彼女がイライラしているのは一目瞭然だった。
「リテッソって第一小隊の?」
ウォルの問いにティスは頷いた。
「そう。あたしとあの子、現実のカプセルの区画が近いから。同じ軍団で、現実でも顔を合わせるの。それだけなのに何の恨みがあるのかしらね、いっつもからかってくるし、あることないこと吹きこんでくるし」
「あることないこと?」
ウォルはタンクトップに手をかけていたが、それを止めてティスの顔を見た。
ティスは弾かれたように視線をずらした。
「色々よ。下らない噂。あんなものを聞いて無駄な時間を使ったわ」
「ふふ」
「なによ、オウカ」
ティスはオウカに笑われていることに顔を顰めていたが、そこには敵意のようなものはなかった。拗ねるようなという形容がピッタリ当てはまる。
「こんな風にウォルちゃんと話すティスちゃんっていいなあって」
「そうね。そこは自覚があるから否定はしない。改善されたわ。でもね、あたしとウォルだけなら話してないわよ、きっと。そうよね」
「ああ。オウカがこうして話を振ってくれるからだな。前から話してくれていたから、話すという事に慣れていた。隊長のおかげで円滑になったが、その土台を作ってくれていたのは君だ」
「そういうこと」
鼻を鳴らして、ティスは一気に裸になった。一番にシャワーを使い始める。
「でも、ティスの場合は隊長殿と何かあったのだろう?」
二番目に入ったウォルは、ティスの隣を陣取った。
「まあね」
「嬉しいことだが残念でもあるな」
「どうしてウォルちゃん?」
「できれば自分で解決したかったんだ」
「無理だったと思うわ。あたしがあんた達に違和感を勝手に覚えて壁を作っていただけだし。他にも色々誤解していたから」
「誤解?」
「そう。ま、気にしないで。そっちは終わったことだから。今を大事にしましょ」
ティスがそう言うと、ウォルもオウカも追及することはなかった。
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