第6話 確認


「ガッカリだよ。青年飢鬼!」




そう言い、秋田が俺にもう一度飛びかかる。風よりも速い速度で。




「ちょっと待ってください!なんの話───」




俺が誤魔化そうとすると秋田はすぐに俺の話を遮る




「とぼけんな!話は全部、佐賀ちゃんから聞いてんだ!一生不味い飯でも食っとけ!」




秋田が俺に吐き捨てる。こんなことを言われるとさすがに俺もキレる。




「…はぁ…。分かったよ分かったよ。とぼけるのもいい加減辞める。とにかく、あんたは今、俺と戦って話を聞きたいんだろ?こっちもやらせてもらうわ」




俺は適当にホラを吹いた。


戦闘の経験なんてない。喧嘩も。言い争いはすぐ負ける。けどどうだ?今となっちゃ、人間じゃねぇ。人間じゃないから人間らしからぬ行動もイキって出来んのか?ハッピーじゃん。やってやるよ秋田。




「…そうだ!その意気だよ!青年飢鬼!…ッフ!」




秋田が俺のことを嘲笑ったかと思うと、見えない速度で頬に衝撃が走る。




「…ッタ!チッ!」




俺が舌打ちをする。


何とか和解できないか。できるだけ戦闘はしたくない。ただ、この状況。完全に秋田が優位だ。ビビって手も足も出ない。戦闘の経験、訓練、速さ、力、武器、全てにおいて秋田が有利を取っている。




「…つまんねぇ…もっと仕掛けろよ。もっと攻撃してみろよ。私に!」




秋田が立ち止まり言う。


遠慮なく俺は秋田の顔面に拳を送る。


すかさず秋田はそれを握り、苦笑する。




「…プッ…!ハハ…ハハハ…アッハハハ!はぁはぁ……馬鹿?見えてるところからの攻撃なんてかわされるか止められるかなんだよ?その攻撃なんて───」




無性に腹が立った俺は拳を下から上に思いっきり上げる。秋田の顎目掛けて。




「ッ…!」




秋田が下顎を触ると、どうやら顎が切れているようで出血していた。




「そうだ…そうそう…この感じだよ…思い出した…。対策課が懐かしい。青年飢鬼。ありがとう。」




秋田が脳の底から古い記憶を掘り出す。俺はポカンとした顔を浮かべていると秋田が口を開く。




「それと…。」




秋田が一言 言うと俺の首筋を掴み、クナイを頬に当てる。


身動きが取れない。完全に終わった。




「…。はぁ…なんでこんなことするんですか?確かに僕は人間じゃない。飢鬼ですよ。ただ、僕は飢鬼に殺されかけて、飢鬼になったんですよ。それって被害のうちですよね。ヒーローは被害者側の意見、加害者側の意見も考えずにヴィランを裁くんですか?なら僕はヒーローにガッカリですよ。あなたにもです。今ここで僕を殺すと後悔しますよ。ミユキ、ナナ、カイト、モモ、レオン。なんで俺を殺したって言ってきますよ。そしたらこの学校辞めることになりますね。先の物事を考えずに行動すると大変なことになるって知りません?」




俺は思ったことを全て口にする。死ぬ間際は一言じゃ飽き足らない。せめて洗いざらい吐かせろ。




「…もしかして本気で私があなたのこと殺すと思ってたの…?」




秋田が声色を変えて俺に言う。




「…ぇ…?」




俺はそれに少し驚き小さな声が漏れる。




「学校が生徒を殺す?馬鹿じゃん。私がそれやると思った?あんたもうとっくに有名人よ。カリスマ性高い飢鬼を今ここで殺すとか無理無理。」




秋田が俺の方に当てていたクナイをしまい、俺に耳元で囁く。




「じゃ、じゃあ…さっきの戦闘は…?」




俺が秋田に質問する。




「え?あんたが自我持ってるかどうか確かめたかっただけ。全然普通だったね。ちゃーんっと自我持ってたから異常なし。部屋出ていいよ。」




秋田が俺に言う。




「それと今後、飢鬼対策課が出てくると思うから、そこら辺上手くやってね。」




俺が部屋を出ようとすると秋田が俺に声をかける。




「シーン。話終わった?」




カイトがポケットに手を入れながら俺に聞く。


どうやらみんなは先に寮に行っているようだ。




「あぁ。おわったよ。てか、もう寮入っていいの?」




俺が何食わぬ顔で聞く。




「あぁ。もうクラスとか寮とか決まってるらしいから」




カイトが俺の質問に答え、2人で歩き出す。




「なんか…大変な事なっちゃったよな。」




カイトが重たい空気を吸って吐き出す。




「そうだよな…。ま、まぁ。何とかやって行けるだろ…」




俺はそう言ったが、俺が1番上手くやっていけそうにない。いずれはみんなに俺の正体を明かさないといけない。そうなった時のみんなの反応が怖い。


少し気まずい時間を2人で過ごした。


























───飢鬼対策課 本部


コンコン──




「失礼します。」




秋田が久しぶりに対策課のドアを開く。




「おぉ。秋田くん。久しぶりだな。で、用件は?」




長官が椅子を立ち、秋田と握手をする。




「先日、佐賀ちゃ…佐賀隊長から青年飢鬼について聞きましてその飢鬼を捜索していたのですが報告がございます。」




秋田が少し戸惑いつつも淡々と話す。




「言ってみなさい。」




「実は…我が校で青年飢鬼を預かることになったのです。」




秋田が少し身構えて言う。




「…なんと!それでは今すぐ全部隊に報告を───」






「ですが、私としては青年飢鬼、八村シンを捕獲したくは無いのです。話してみたところ、自我を持っています。今井ユミと同じケースかと思われますが、両親のデータを調べてみたところ、違う。このような貴重なサンプルは他にない。研究の材料としても使えるし、殺す訳にもいかない。ですから長官。お願いです。彼を捕獲しないでください…!」




秋田が長官の話を遮り先程と打って変わって重い雰囲気で話す。




「……分かった。その代わり、彼に何か問題があった時の監視役を付けさせてくれ。頼れる第2部隊だ。」




「…承知しました。」




























───北海道 札幌 某所




「標的は20代程の若い飢鬼。今、裏路地に立川ビルの裏路地に入ったそうです。」




ヘリに乗った男がもう1人の男に情報を報告する。




「あぁ、分かってる。今見てる。」




『佐賀さん。もう大丈夫だ。離れとけ。』




『…了解。外すなよ?』




『分かってる。』




男が通信を終えるとヴァイオリンケースの中からスコープ付きの長銃を取り出す。




「狙撃許可、求む。」




『狙撃許可を。長官。』




『狙撃許可、降りました。』




「…。狙撃。」












今日も、上空で耳と空をつんざく銃声が聞こえる。

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