第5話 青年


「お兄……ちゃん…?」




俺は声の方向に振り向いた。するとそこにはいるはずのない姿があった。




「え…?モモ…?」




あまりの衝撃に思わず声が出る




「ぇ…?もしかして…女優の藤原モモさん?!」




カイトが驚き叫ぶような声を上げた。




「お、お兄ちゃんってことは…」




レオンがシンの方向を見て言う。


俺は元々子役をやっていて、その時に会ったのがモモ。


連絡交換してたし、顔を覚えられて当然だ。お兄ちゃんとか言われてるだけで、実際は違う。


俺に妹なんて居ない。




「違う違う!えーっと…俺、子役やってた時に、モモに会ってお兄ちゃんとか呼ばれるようになって、妹じゃないから!」




俺が慌ててレオンの口を遮る。




「とりあえず…こんばんは…?シンの友達のモモです。


みんな私の事知っててびっくりしちゃった…ハハ…」




モモが気まずそうに話す。




「い、いや!全然!有名なんでみんな知ってますよ!」




ナナが言う。




「あ、ありがとうございます!」




モモがぺこりと頭を下げた。




「ぁ!頭とか下げないでください!お願いします…」




カイトがすかさず言う。




「ごめん!なんか行くところだった?仕事とか、撮影とか、邪魔しちゃった?俺ら泊まるところ探しててさ、ごめんね!」




俺がモモを安心させるように言う。




「い、いや!大丈夫!家帰るところだったから…。せっかくだし…皆さん、泊まるところないなら私の家泊まります?」




モモがみんなに言う。




「ぇ?!いいんですか?やったー!!」




ナナが興奮しながら叫ぶ。




「とりあえず、着いてきてください!」














───数十分後


「着きました!私の家です!」




モモが自慢げに言う。


目の前にたたずむ巨大な豪邸。




「で、デカすぎ…」




レオンが小さく呟いた。




「さ。どうぞ!」




モモについて行き、玄関に入る。


独特な匂い。きちんと掃除されている廊下。




「お邪魔します…」




みんなそれぞれ靴を脱ぎ、恐る恐る入る。




「えっと…もう夜遅いんで寝ます?私明日の朝から仕事あるんで起きたらいないかもですけど…」




モモが全てを知っているかのような口調で言う。




「あ、はい!じゃあ…そうします。」




ミユキが返事をするとモモがベッドルームへと案内する。




「じゃ、じゃぁ…私別室で寝ますね!」




そう言い、モモは細長い通路に消えた。


















───久しぶりに夢を見なかった。


気づいたら朝になっていて子鳥のさえずりが聞こえた。目をつぶって、暗闇を眺めていただけで朝になる。夢は見ない。深い眠り。


さっさと起きて学校に行こうと立ち上がるとベッドの傍のテーブルに置き手紙があった。




『おはようございます。朝ごはん作ってあるので、ご自由に。それと、玄関に鍵があるので鍵しっかりかけて、ポストに閉まっていてください。 モモ』
















朝ごはんを俺以外食べ終わったあと、家を出て鍵を閉める。




「よし!あとはここから15分歩くだけ!」




カイトが言い、みんな並び歩く。




学校か…。飢鬼被害特別支援高等学校…。


俺は飢鬼。飢鬼にされた。それも被害だよな…。飢鬼がそこの学校入る資格あんのかよ…。


俺がもしなんかしたらその学校どうするんだよ。


なんで俺が飢鬼になったんだよ。なんで俺なんだよ…。




意味わかんねぇ。分からせろよ。ロームとか言ったあの馬鹿。








学校に着いた。


広く大きな校舎。校舎の隣にある大きな建物。寮だろうか。生活が厳しい生徒のために寮制度を取り入れてあるのだろう。こちらも助かる。




昇降口を上がると先生方がいた。




「こんにちは〜。入学手続きはこちらへどうぞ。」




手を廊下に送り、俺たちを案内する。




















入学手続きが終わり、帰ろうとすると、職員が俺達のことを呼び止めた。




「八村君達!校長先生が君達に会いたいとおっしゃられているから、校長室へ行きなさい。」




職員に言われた通り、校長室をノックし、入る。




「失礼します。」




「こんにちは。校長の秋田照子と申します。早速ですが質問したいんですけど、あなた達は松本第3中学校の生徒ですよね?」




校長室に入った瞬間、その校長は質問を投げかけてきた。




黄金色の髪の毛にお団子。サングラス。風貌が校則違反そのものだ。だが、あの対策課の人と同じようにどこか大人しく、爽やかな感じがする。




「は、はい…そうです」




カイトが返事をし、少し俯く。




「…ごめんなさい!本当に、周りのお友達助けられなくて…。」




秋田が泣きかけの声で謝る。




「…次に…質問したいんですけど…八村君と2人きりで話したいので、先に外で待ってて貰えません?」




秋田の雰囲気がガラッと変わる。声色もだ。




「は、はい。」




そう返事をし、カイトたちは外に出る。




「じゃ、2人きりで話せるね。質問がある。」




秋田がトントン拍子で話を進める。


髪の毛をほどき、サングラスをとる。そのオッドアイの美しい目は何もかもを見透かすようだった。




「な、なんの質問ですか?」




俺は少し戸惑いつつ、平静を装い返事をする。




「君さぁ…飢鬼ならもっと飢鬼らしくしろよ。」




「ぇ?」




秋田が冷たい声で言うと本能的に俺の声が漏れた。


まるで猛獣に追われるうさぎのように。




「ねぇ。行くよ?かまえとけよバカタレ。」




胸の内ポケットからクナイを取り出す秋田。




「待ってくだ…───」




パラパラッ…




俺の髪の毛が数本切り落とされる。


速い。目で追えようにない。




「はぁ…ガッカリだよ。青年飢鬼!」






















約1日前…


────飢鬼対策課本部 会議室




「───これにて会議を終了させていただきます。全国の対策課の方で、八村シンの追跡を促してください。以上。飢鬼対策課本部 第1部隊 メイクウルフから佐賀平子。」




佐賀が文章を読み上げた後、長官が軽く頷き、怒鳴るように言った。




「八村シンなど回りくどい言い方はやめろ!!人間じゃないだろ!1匹の飢鬼として考えろ。あいつは史上最年少で飢鬼化した、立派な飢鬼だ!ネームは……


青年飢鬼だ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る