第2話 飢鬼
「おめでとう。今日から君は飢鬼だ。」
訳が分からない。知らないやつが学校に侵入してきたかと思うと、知らないクラスの連中が気づいたら死んでる。
……で?こいつに変な注射打たれて?ナナが言ってた”ガッキ”になったとか言う。
「は?俺が?その変なガッキとか言うやつに?信じるわけあるかよ」
俺はやや悪態をつきながらそいつに言った。だがその変なやつはこう言う。
「はぁー…分かってないね〜……。飢鬼ったら飢鬼…!なったもんは仕方ないよ。ま、後でわかるさ。てなわけで、女が待ってるんで、お先にッ」
変なやつはそう言って俺に背を向け手を振りながらどこかに消えた。
やべ…あいつら待ってんだった……。
早く行かねぇと……、、?
ア゛ッ!なんだよこれ…吐き気の次は頭痛かよ?!
「ぁ…やっば…」
急に視界が暗くなったと思うとそのままフラっと俺の体が地面へと吸い込まれるように倒れたのがわかった。
またかよ…同じところ…さっきもあった……アッタ……?
誰だ…?あの人…。
ボブの髪…隊服みたいなん着てるし…。どっかで見たことある…?気のせいか。
「…」
泣いてる…?気になるけど、話しかけずらい…。
「…ん…?」
あ、見てるのバレたか…?
「……」
こっち…歩いてくる…。
「……」
近っ!
「ぅーん…ま、いっか。」
その女が俺の顔を覗き込んだかと思うと歩いてどこか消えてしまった。
「…ん…?どこだ…ここ…って俺ん家…?」
目が覚めたら自分の家。いつものベッド。なんだか安心する。
「起きな……?ぇ。」
1度反対方向を向くとすやすやと気持ちよさそうに寝ているミユキの姿。
ミユキと初めて寝た時はあんま気にしなかったけど…ミユキって意外と…寝顔可愛いな…。
ベッドから起きるとミユキだけじゃなくカイトとナナも寝ていた。
よっぽど今日のことで疲れたのだろう。少し揺らしても起きない。
「風呂はいろっ」
リビングに行き、電気をつけ、洗面所に行く。
もちろん音を立てないように。
ふと、鏡を見る。
「ぇ……?」
思わず声が漏れてしまう。
肩甲骨から生えている謎の物体。
「嘘だよな…?」
もう一度確認する。鏡に手を当て、何度もまばたきする。
その肩甲骨から生える美しいほどに冷酷で残忍な人を殺す道具は”触手”と呼ばれた。
はぁはぁ…落ち着け…深呼吸…。あいつが言ってた通り…なのか?スマホ…取ってこねぇと…。
スマホを手に取り、ネットで調べる。
【飢鬼とは】
都市伝説で今、話題の飢鬼。
噂によるとその生命体は”触手”と呼ばれる肩甲骨から生えているものを使って人を殺すらしい。
名前の通り、鬼なので、人を喰い殺すこともあるそう。
…これだ…。俺…?飢鬼…?嘘だろ…じゃぁ…これから…あいつら…ミユキ…カイト…ナナ…達と…?普通の……生活…出来ねえの…か……?
俺だけ……化け物……。化け物、、化け物、、化け物、、。
やば…一旦、あそこ行って心落ち着かせるか……。
「シーン。来ちゃった。びっくりしたよ。部屋中探しても全然いないんだもん。」
ミユキが廃ビルの屋上の扉を開け、俺にそう言う。
「ごめん。ちょっと落ち着かなくって…。てかさ、俺倒れたあと、どうしたの?」
俺が不思議に思っていたことを聞いた。
「あぁ…あれね。シン遅いなって思って探したら廊下で倒れてんだもん。カイトが診てくれて、大丈夫だって言ったから家まで連れて帰ってみんなで休もうってなった。それだけ…。」
ミユキが心配そうに俺の質問に答えた。
「ねぇ…そんなことよりさ…。」
ミユキが急に声色を変えて呟いた。
「どうした?」
俺がきょとんとした顔で聞く。
「なんか、私に言うことないの?シンも……」
え…?バレてる…?
「言うことって…?な、何を…」
「さっきからおかしいって思ってたよ。シン、八重歯なんてなかった。八重歯っていうか…ほとんど…牙じゃん…。」
「ぇ…。」
「ねぇ…私になんか言うことない?」
「…」
やり取りが続いたあと、しばらく沈黙が続く。
「…これ言ったら…俺らの関係全部ぶっ壊れるぞ…?今まで、楽しいこととかしてきたのに、思い出作ってきたのに…全部全部…。」
俺は俯きながらミユキに言う。
「…そんなに大事なことなの…?だったら…友達なんだから…親友なんだから…隠し事とかしないで…全部白状して…?」
ミユキは俺に上目遣いをしながら言ってくる。
「…分かったよ…。はぁ……。俺さ…人間じゃ無くなった。」
「え?なんて?」
「人間じゃなくなった。俺。」
「じゃ、じゃぁ…何になったの?」
「飢鬼ガッキ。」
「え?」
「…」
こんなことにしてしまった自分が悔しい。俺が教室から出てなかったら…全部いつも通りだった…。
「…ごめん…俺、教室から出たから…。変なやつに襲われて…もうミユキとかと関われ無くなるかもしんないし…俺が…お前らのこと…」
罪悪感というか、悔しさというか、なんとも言えない感情から涙がポロポロとこぼれてくる。
「シン…。私は…シンの事信じるよ…。だって今まで仲良くしてきたんだし…私たちのことなんて食べないよね…?」
ミユキもつられたのか泣きながら俺に近寄る。
「うん…絶対食わない…。」
ミユキはその小さな腕を俺の背中に持ってきて、そっと胸に顔を当てる。
俺もそれに応えて腕をミユキの背中に持っていき、そっと抱きしめた。
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