97話目「見え」

 それはファストフード店でポテトをつまみ食う二人の少女たちの会話である。

「そういえば文芸部の二人、やっぱり付き合ってるらしいよ」

「あ、そうなんだ。前から怪しいとは思ってたけど」

「本人たちは隠しているつもりらしいけどね」

「いや、あれは隠せてないって。声も息遣いも何もかも違和感あったし」

「確かにね」

 他愛のない会話である。

 ただ、一方の少女――美沙は白杖を持っていた。

 視覚障害者の象徴ともいえる道具。


 そして、もう一方の少女――志月は、美沙が視覚障害者であるをいいことに、美沙の顔をじっと眺めていた。

 頬を熱くさせて。

 じっと――、うっとりするように――。


 ただ、そうやって見られる美沙はといえば、冷静でいるのに必死だった。

 なにせ、美沙は見えているから。

 美沙は全盲ではなく、弱視であったから。

 健常者の十%程度は見えている。

 ちょうど、すぐ近くから美沙の顔を見つめる志月の顔くらいは見えている。

 真っ赤な顔して、こちらを見つめる志月の顔は見えている。

 だから、美沙は、自分が見えているということを気づかれないように、自分の顔も赤くならないように冷静でいようとしていた。

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