95話目「十回目の初めてのキスをする話」

 誰もいない放課後の教室にて。

 千穂と真莉愛という少女二人は初めてのキスをした――が、

「待って待って――、今のノーカン」

「またぁ? いいかげんにしてよ」

「いや、今のはちょっとないから。歯あたっちゃったでしょ? 初キスがこれはないから。だからノーカン」

 千穂は真剣な眼差しをするが、真莉愛は溜め息をつく。

 はたして初キスにノーカンというのはあるのだろうか。

 実はこの二人、既にキスを数回済ませているのだが、そのたびに鼻息を強くかけてしまったとか、抱き方を間違えたとか、外から陸上部の声が聞こえたとか、千穂が何度も「今のはノーカン」と主張するのだ。

 そのため今の初キスは、九回目の初キスであり、次が十回目となるのだが、

「ほらほら、目閉じて、顎上げて」

 千穂の指示はムードも何もなくなっており、真莉愛も溜め息をつきつつも黙って従っていた。

 そして内心では――

 ――またキスができる。千穂とまたキスができる。もっとしたい。もっとしたい。次は何で因縁つけさせようか。

 と、思っていた。

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