93話目「同性愛?」

 学校からの帰りだった。

「亜美がレズって本当?」

「は?」 

 実は自分が好きな相手――佳代に問われて、亜美は瞬時に顔に熱を感じた。

 なぜ佳代がそのことを知っているのだろうか。

 中学生のときにカミングアウトしたことがきっかけで噂が広まったことはあったが、その噂が今も流れているということか。

「レズじゃないけど……。なに? そんな噂とかある?」

 亜美の心臓は大きく脈打っていたが、顔には出さないようにした。

 すると佳代も、単なる世間話のつもりだったのか、「そうなんだ」と言った。

 ただ、会話はそれきりとなり、沈黙がしばらく続いた。

 佳代がどういうつもりで聞いてきたのか気になるが、亜美は聞けない。

 あるいは、佳代がレズビアンに偏見を持っていたら――と怖かったからだ。

 そして、まもなくして亜美と佳代はそれぞれの家路に分かれることとなった。

「じゃあ……」

 亜美は、極力自然な振る舞いで別れを告げるが、

「えっとさ――」

「え?」

 佳代が声をあげたため、亜美は立ち止まった。

 だが佳代は「あーー、えーーっと……」となにか考えるような声を出し、「いや、なんでもない。じゃね」と背中を向けた。

 亜美は、しばらくその背中を見送っていたが、やがてコーナーの奥へ消えていった。

 ただ亜美は佳代の姿が見えなくなっても、その場に立ち尽くしていた。

 とっさのことだったが、亜美は嘘をついてしまった。

 それも友達にして、自分が好きな相手に。

 胸がチクチクした。

 頭の中がモヤモヤした。

「やっぱりダメだ――」

 夕暮れで影が強くなった道を、亜美は走りだした。

 そして幸運にも、すぐに追いついた。

 佳代に。

「佳代!」

 亜美はその背中に声をかける。

「亜美……? なに?」

 亜美はわずかに振り返る。

 その顔は夕日の影ではっきり見えなかったが、亜美は言う。

「ごめん! さっきの嘘! 私、レズビアン!」

 亜美は息を切らしながらも言った。

「ずっと隠してたけど、レズビアンなの! 黙っててごめん! もし佳代が嫌なら、これからはトイレとか一緒に行かないし、手を握ったりもしないから――って、あれ? 佳代……?」

 亜美は必死に謝罪をしつつ、佳代に近づいていったのだが、その顔がよく見えるようになり言葉を詰まらせた。

「なんで、泣いてるの――?」

 亜美は動揺した。

 カミングアウトで佳代を傷つけてしまったか。

 それとも怪我でもしたのか。

「ど、どうしたの?」

 亜美は、カミングアウトした手前、佳代に触れていいのかも分からずオロオロとしてしまった。

 だが、佳代は嗚咽混じりに言う。

「私も……実は……、レズビアンなの……」

「え……」

「黙ってて……ごめん……」

「あ、いや……」

 亜美は、突然のことになんと言っていいか分からなくなった。

 だが、佳代はさらに続ける。

「それでね……、私……亜美のことが……」

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