90話目「未練」

「あ――、琴乃――!」

「――え? あ、真夢……。お、おはよ……」

 朝の学校への道中であった。

 琴乃は、今は友人の真夢と遭遇した。

 今は友人、三ヶ月前までは恋人だった少女と遭遇した。

「朝っぱらに会うの久しぶりだね」

「うん。私、ずっと部活だったから」

 琴乃は笑顔を作って頷く。

 ただ、動揺がないといえば嘘になる。

 真夢と別れてから真夢と会話したことも少なくはないが、たいていの場合はやむを得ず会話をしなければならないときで、琴乃も覚悟をもって臨んでいた。

 対して今は突然のエンカウントだったので、琴乃はわずかに緊張していた。

 だから、琴乃は思わず墓穴を掘っていく。

「新しい恋人とはどう?」

「――うん。順調だよ」

 真夢は若干詰まったものの、笑顔で答えた。

 だが、学校までの五分あまり、会話はろくに盛り上がらなかった。

 そして、そのまま別々のクラスへ分かれ、琴乃はひとり自分の席につき、溜め息をついた。

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