第11話 快適“魔車”の旅
馬車もどきに揺られながら、私たちは『大図書館』へと出発した。
揺られて、なんて言ったけど実際はちっとも揺れない。
というかこの馬車もどき、かなりすごいのだ。
何せ車輪がない。馬が引いているわけでもない。
そう、魔法の力で浮いて移動する馬車なのだ!
「ねえねえ、ティウルせんせい。こののりものどーやってういてるの?」
私が質問すると、ティウル先生は困った顔をする。
「確か、魔法の反発がどうとか……すまん。私もよくわからん」
そういえば、ティウル先生は魔法の理論なんかは苦手だった。
獣人族の戦い方と言えば、魔法で身体を強化するのが一般的だけど、みんな『なんとなく』それを使っているらしい。うーん、脳筋種族め。
仕方ないから御者のおじさんに聞いてみよう。
「ねえ、おじさん。これ、どうやってうごいてるの?」
「わ、わたくしですか!?」
あ、なんか驚かせちゃったみたい。
考えてみればお姫様にいきなり声かけられたらビックリするよね。
「ごめんなさい。おしごとのおじゃまだったかしら?」
「い、いえ、そのようなことは……しかし、わたくしがお答えしても良いのでしょうか?」
おっかなびっくりティウル先生の顔色をうかがう御者のおじさん。
「かまわん。仕事に差し障りのない程度に話してやってくれ」
「そういうことでしたら……」
ティウル先生の許可もおりたので、おじさんは話しはじめる。
「簡単に言うと、<風>と<地>の魔法の反発作用を利用しているんです」
うん。ちっとも簡単じゃなかった。
なんじゃその“はんぱつさよう”とかってのは。
「<風>と<地>は相性が悪いのだ。両方の源理を魔導具に用いるとお互いに押し退け合う……らしい」
私が思いっきり「わかりませーん」ってアホヅラをしていたら、みかねたティウル先生が教えてくれた。
ていうかティウル先生も微妙にわかってないっぽいなこれ。
「ティウル様のおっしゃる通り、この馬車の下には<風>の力を込めた魔導具が五つ取り付けてあります。一つは馬車自体を浮かせるため、残る四つで前後左右に動かしているわけです」
「あれ? じゃあ、ちのまどうぐはどこにあるの?」
「それは、この地面の下です。この辺りには『大樹』の根が広がっていますから天然の<地>の力が強く働いているのです」
うーん、まだちょっとわからないことがあるけど、要するにリニアモーターカーみたいな感じかな?
『大樹』の根っこは線路みたいな?
「どのくらいのすぴーどがでるの?」
「そうですねぇ……足の速い獣人族と競争ができるくらいは出ると思いますよ。まあ、荷台やらなんやら余計なものをぜんぶ取っ払ったらの話ですが」
その足の速い獣人族ってのがどのくらいのものなのかがわからんのだが。
まあ、わざわざ例えに出すくらいだからきっとすっごく速いんだろう。
「若者がこの『
ティウル先生が溜息をつきながら言った。
どこの世界にも若さを持て余してる系の人たちっているのねー。
それにしても『魔車』って……。そのまんまネーミングだわ。
「それじゃ、この“きゃりっじ”をもっとたかくとばすことはできるの?」
「それは難しいですね。地面から離れ過ぎると<地>の力が弱くなってしまいます。それに……」
「それに?」
「空は、神様の領域ですから自由に飛ぶことを許されているのは鳥たちだけです。それでも、あんまり高く飛ぶと罰が下ってしまいます」
罰が下るってどういう意味だろう?
空を飛ぶ技術がまだ確率されてないってことか、それとも文字通り天罰的な意味だろうか。
「時おり、鳥や空を飛ぶ魔物が落ちてくることがある。どれも黒こげになっているからおそらく空の彼方には何かがあるのだろう」
どうやらマジに天罰的なものらしい。
この世界の謎法則がまた一つ判明した。
「じゃあ、わたしたちはそらをとべないのねー」
私がガッカリしていると、ニコラスが口を開く。
「飛行船がありますよ。大昔に女神様の加護をいただいてるから特別に空を飛ぶことが許されてるって聞きました」
「ひこうせん!? なにそれ! そんなのあるの!? かえったらさっそくのせてもらえるようおとうさまにいわなくちゃ!」
「あれはこの国にたった三隻しかない王家の宝だ。よほどの理由がないと動かすことはない」
なーんだ。期待して損しちゃった。
そもそもお父さまが破壊魔な私を乗せてくれるとは思えないけど。
「ひこうせんはだめにしても、このきゃりっじっていうのもいいわね。ぜんぜんゆれないしかいてきだわ」
「姫様にそう言っていただけると、自分も誇らしいですね」
魔車はこの辺りじゃありふれた乗り物だけど意外と奥が深いらしい。
地面の下に広がる『大樹』の根は自然のものだから<地>の力は一定じゃない。その違いを熟知して四本の“脚”それぞれで<風>の魔法を制御し常に平行を保つ必要がある。それでいて目的地まで素早く移動もしなければならない。非常に繊細な魔法の制御が必要なのだという。
なので公共魔車の御者になるための試験はめちゃくちゃ難しいそうだ。
さらにその中から城の専属に選ばれたこの御者のおじさんは言わばこの国で最高の御者と言ってもいいのだろう。
実際、ここまでの道中、揺れも傾きもほとんど感じなかった。
それも私の矢継ぎ早の質問に丁寧に答えながらだ。
まさに熟練の仕事と言わざるを得ない。
御者のおじさんのトークと巧みな運転技術のおかげで、私たちは『大図書館』への道すがら快適な魔車の旅を過ごした。
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