第9話 魔法を練習してみよう
魔法の授業で一番最初に教わること。
それは、私たちの世界にはありとあらゆる場所に魔法の源となる『源理』が存在しているということだった。
たとえば、ヒトの身体が温かいのはそこに<火>の『源理』が働いているからであり、血は<水>、肉は<土>、そして呼吸を司る<風>という感じにだ。
魔法使いには世界のあらゆる仕組みを『源理』として捉える知識と感覚が必要とされる──らしい。
ぜんぶメリッサからの受け売りだけどね!
いまいちぴんときていないっていうのが正直なところだけど、立ち止まってはいられない。
私は一刻も早く魔法をものにして、『勇者』と戦えるようにならなければならないのだから。
そんなわけで独自に魔法の練習をすることにしたわけである。
「姫殿下、こんなものどうするんですか?」
私の横で私より背の高い丸太を軽々と運ぶ犬耳少年が不安そうに聞いてくる。
「まほうのれんしゅうにきまってるじゃない。それより、“ひめでんか”ってよぶのやめてっていったじゃない」
「で、ですが……」
困ったように目を伏せる犬耳少年の名前は『ニコラス』。
見ての通りの
城に仕える庭師の孫で私の子分……じゃなくて遊び相手だ。
確か私より四つか五つくらい年上のはずなんだけど見ての通り気弱な性格で、同年代の男の子とはどうにも上手く付き合えないというか、ぶっちゃけイジメられてたらしい。
獣人族のヒトたち荒っぽいからなー。
とくに犬系はテンションが上がると力の加減ができなくなるっていうし。彼らが鬼ごっこ的な遊びをしてるのを見たことがあるけど、アメフトに総合格闘技を足して三割増しでバイオレンスにしたようなような感じだった。
ニコラスがついていけないのもわかる気がするわ。
両親は二人とも軍人でほとんど家にいないらしく、ニコラスは午後になるとお祖父さんの手伝いをして過ごしていた。そこに目を付けたのが私ってわけだ。
私の子分──もとい『打倒勇者』の記念すべき最初の同志として迎え入れることにしてあげたのだ。まあ、本人には『護衛』ってことにしてるけど。
「おたがいこどもなんだから、きがるになまえでよべばいいのよ」
「そ、そんな恐れ多いです……!」
ぷるぷると首を振るニコラス。尻尾を足の間に巻き込んで震えてる。
確か犬って怯えるとそんな風にするんだっけ。……てゆーか、そこまでビビらんでも。
これは少し荒療治が必要かもしれない。
「きめたわ。ふたりだけのときは『アリステル』とおよびなさい! これはめーれーよ!」
「ええーっ!?」
「ほれほれ、いってみなさいよ」
「うう……あ、アリステルさま……」
まだ『様』がついてるのがきになるけど……ま、いいか。
「これからはそのよびかたね。ひめとかでんかってよぶたびにおしおきだから」
「お、お仕置き……」
また怖がらせてしまった。
それにしてもぷるぷるしてるニコラスは可愛いのう。うえっへっへっへ。
……はっ!?
いかんいかん。あやうくケモショタに目覚めるとこだったわ。
それより今は魔法の練習だ。
メリッサには『自分がいないところで魔法は使わないように』と言われているが、私には大事な目的がある。
少しでも早く魔法を手足のように使えるようになって、次の段階の『魔術』へと進みたい。
というわけでさっそく……。
「“フウディン”」
メリッサから教わった<火>の呪文。
聞き慣れない言葉のはずなのに、口にした次の瞬間にはずっと前から知っていたかのようにしっくりと来ている。
まるで世界の仕組みに触れたような、相変わらず不思議な感覚だった。
魔族にとって魔法は身体の一部。手足と同じだとよく言われるが、むしろ魔族の方が魔法という大きなパズルのピースの一つなんじゃないかと感じる。
いや、自分で言ってても「なんのこっちゃ?」って感じなんだけど、そうとしか言いようがないのだ。
呪文に応えるように、かざした手の先に細い火線がいくつも走ったかと思うとギュンギュン集まって大きな火球を形作っていく。
「って、なんかどんどんおおきくなっていくんですけど!?」
メリッサがやった時は、ロウソクの火よりちょっと大きいくらいだったのに! どうしてこうなった!?
「早く止めないと大変なことになります!」
ニコラスの言う通りだった。
火球はいつの間にやらバスケットボールくらいの大きさになっている。
だけど止め方なんかわからないし……よし! こうなったら投げちゃおう!
「いっけー!」
ゴウッ! と火球が放たれた途端、身体全体が浮いてしまうほどの強い反動が私を襲った。
「にょわ!?」
後ろに吹っ飛ばされた私はそのまま後ろ向きにでんぐり返り、後ろの植え込みにぶつかるまでダンゴムシみたいにゴロゴロ転がっていった。
「ひめで……じゃなくてアリステルさまだいじょうぶですか!?」
「いたたたた……あたまうった……」
起き上がって見ると、城壁に大きくて黒々とした焦げ跡が出来ている。
その横には的にしたはずの丸太が持って来た時と同じ姿で立て掛けられていた。
要するに、ものの見事に外したわけだ。
まさかこんなに反動があるとは思わなかったわ。
体格のせいもあるだろうけど、ちゃんと当てるにはそれなりに鍛練が必要な気がする。
もしかして、魔法って意外と肉体勝負!? 力こそパワーな世界ってわけ!?
強くなるためとはいえ、ムキムキマッチョはいやだなぁ。
もっとサイズを小さくしたら反動を抑えられるかな? だけど、そうなると当然威力の方も下がるわけで……。
とりあえず、<火>の魔法については要・研究だわ。
ちなみにこの『フウディン』という謎の呪文、別にわざわざ口に出して唱えなくても頭の中で考えるだけでも魔法を発動させることができるっぽい。
だけど、なんていうか手応えがないというかあまりに無意識にできてしまって逆に怖いのだ。
メリッサからも「慣れないうちは必ず呪文を口にするように」と言われている。
子供のうちから呪文を省略していると、無意識に魔法を使ってしまうようになるらしい。
実際、魔法を覚えたての頃には寝ている最中に<水>の魔法を発動させちゃったり、クシャミした拍子に<風>の魔法を発動させちゃうことは珍しくないらしい。
新入学シーズンの頃には子供たちが魔法で濡らしてしまった布団を干しているお母さんたちという光景がそこかしこで見られるそうだ。やっぱり『おねしょ』扱いである。
それに日常的に魔法を使う魔族社会ではきちんと周囲に「これから魔法使いますよ」と示す方がいいというのが常識だ。
よくある「無詠唱だとぉ!?」とかってアレはかなりのマナー違反。
そんなことしたら「まあ、あの子ったら呪文を唱えませんでしたわよ」「いやあね、不良だわ」と白い目で見られてしまう。
ノーヘルでバイクに乗って暴走する若者みたい。
私もおねしょ娘やヤンキー扱いは嫌なので、そこは形式にのっとって呪文を唱えていくことにしている。
それに呪文があった方が気分も上がるしね。
それはさておき。
私は、さっそく次の魔法を試してみることにした。
「いくわよ……“バエティ”!」
今度は<水>の魔法だ。
これまた謎の呪文を唱えると、<火>の魔法の時と同じようにかざした手の先にぎゅ〜っと水が集まってくる。
さっきの反省を踏まえて、水球がほどよい大きさと圧縮具合になったところでそれを……解き放つ!
ドンッ!
これまたけっこう強い反動があった。だけど<火>の魔法ほどじゃない。
身構えていたからというのもあったけど、後ろに吹っ飛ぶようなこともなく見事、的に──当たらなかった。
「またはずした!? ていうかあてるのめちゃむずかしくない!?」
おまけに今度は威力も微妙だ。水球の当たった地面が少しへこんでいるくらい。
これならなんかハンマーとかでぶん殴った方が手っ取り早い。
あ、そうだ。
もっとぎゅーっと圧縮して打ちだしたらスパッと切れたりしないかな。
ほら、ウォーターカッター! って感じで。
よし。思いついたら即実行だ!
「“バエティ”!」
ぎゅーっと圧縮してナイフみたいな形にした水が撃ち出される。
ビシャッ!
水のナイフは丸太にぶつかると情けない音を立てて崩れ去った。
……あれ? なんかぜんぜん切れないよ?
もしかして水で『斬る』ってそういうことじゃないのかな。
テレビとかネットで見たのを思い出してみよう。
なんかこう金属とかにペン先みたいなとこから水を当ててたような?
そうか! 細い線みたいに撃ち出せばいいんだ!
「“バエティ”!」
今度は指先から細ーく細ーくした水を打ち出す。
ビシュッ!
丸太に近寄って見てみると数ミリくらいの小さな穴が空いていた。
立てかけていたお城の外壁にもちょっぴり穴が空いているのは見なかったことにしよう。
それにしても……うーん……地味。
確かにこうやって細く圧縮した水を撃ちだしながら手を横に動かせば切断することもできそうだけど、大量の水が必要になるので魔力の消費が激しい。おまけにその辺が水浸しになりそう。
それにあんまり遠くから撃つと着弾する頃には圧縮率が下がって威力もなくなるみたい。
効率悪っ!
元の世界のウォーターカッターのように、近くのものを斬ったり穴を空けたりするくらいにしか使えないかも。
たとえば、錠前とか閂を壊す時に使うとか? 水だから証拠も残らないし便利っちゃ便利かも。
将来魔王になろうっていう私がなんでそんな泥棒めいたことをする機会があるかは定かではない。
……まあいいや。使い道は今度ゆっくり考えることにしよう。
気を取り直して、お次は<地>の魔法を試してみよう。
「“グディオム”!」
私の呪文に応えるように、ズズズズっと地面が盛り上がり壁ができあがった。
これはまったくと言っていいほど反動はない。
土壁のサイズや形はわりと自由に決められるようだ。
材料はもろにその場にある土や石に依存するみたい。建物の中や岩の上なんかだとどうなるんだろう。そっちも要検証だね。
使い道としては……矢とか魔法を防ぐ盾って感じ?
土壁を作る速度はそれほど速くないし、咄嗟の防御とかには使えなさそう。
先に作っておいて遮蔽物にするとかかな。FPSとかなら好きな場所にカバーリングできる壁が作れるので強そうだよねー。
次は強度を調べてみよう。
「ねえ、ニコラス。ちょっとこのかべをこうげきしてみて」
「こ、攻撃ですか……でも……」
「いいからいいから。ぶっ壊すつもりでやっちゃって」
「……わかりました」
ニコラスはキョロキョロと辺りを見回して、庭仕事に使う小さな斧を見つける。
小さいといっても大人にとってなので、ニコラスが持つとけっこうな大きさがある。それでも片手で軽々と振り回してしまえるあたりやっぱり獣人族なのだろう。
「いきます……“ラド・ウル”!」
ニコラスがそう叫んだ瞬間、手に持った斧がにわかに光を発する。
「へ……? ちょ、ちょっとニコラス──」
「はあああああっ!」
私が制止するより先にニコラスは思いきり斧を振り下ろした。
次の瞬間、土壁が爆発した。
正しくはニコラスの攻撃で吹き飛んだのだ。
子供の力とは思えないほどの威力だった。いや、それよりも……。
「ああっ! ご、ごめんなさいアリステルさま!」
爆発した土壁をもろにかぶってしまった私のさんざんな姿を見たニコラスが血相を変えた。
「いいのよ。こんなところにたってたわたしがわるいのだから……それより、いまのはなに?」
「い、いまの?」
「ほら、なんかこうおのがぶわーってひかったやつ!」
「『戦士の魔法』のことですか?」
戦士の魔法!? なにそれ!?
「いやいやいや、ぜんぜんまほうっぽくなかったんですけど!?」
「魔法っぽくないって……よくわかりません。魔法は魔法じゃないんですか?」
「う……そういわれるとびみょーにはんろんにこまるわね……」
今のってゲームで言えば『技』とか『スキル』とかだと思うわけで、やっぱり『魔法』とは違うような気がするのだが、このモヤモヤ感がニコラスには伝わらないらしい。
いや、MP=魔力を消費して使うのだからこれも魔法なのだと言われたら、確かにその通りなのかも?
「そのまほうってわたしにもつかえるのかしら」
<水>の魔法で泥を洗い流しながらニコラスに聞いてみた。
「できますけど……『洗礼』を受ける前にはやめておいた方がいいと思います」
「せんれい? なにそれ」
「えっと……」
気の弱いニコラスがこんなにあっさり否定するなんて、よほどの理由があるのだろうかと聞いてみると、私たち魔族は初等学院に入ったところで大まかに『戦士』『職士』『導士』三つの進路から一つ選ぶことになるそうだ。
それぞれ進むべき進路にごとに習う魔法が変わり、また選ばなかった進路に属する魔法は不思議と不得手になるのだという。
つまり今から<戦士>の魔法を覚えちゃうと、残る二つの進路を選んだ時に不利になるというわけだった。なんじゃそりゃ。
「どうしてほかのがにがてになるの?」
「どうしてって言われても、そういうものだから……」
うーん、誰も疑問に思わないんだろうか。
たまにこういう妙な常識が飛び出してくるところがやっぱり異世界って感じだ。
まあ、そういうことなら試すのは止めておこう。ちょっとした好奇心で将来の進路に影響が出ちゃうのは願い下げだ。なにせ私は未来の可能性に溢れる五歳児なのだ。まあ中身は三十路だけどね……。
気を取り直してつづきをやっていこう。
とりあえず土壁の強度はそれなりだってことはわかった。あんまり過信はできないね。
まあ、矢を防ぐのとかには役立ちそうだ。
あとは穴を掘るとか、建物の土台を作るとか。
別に土木建築業を始める予定はないんだけど。
さて、最後の魔法を試すことにしよう。
ちなみに最後というのは私が今の時点で知っている分という意味だ。
<火><水><地><風>
これが魔族が一番最初に身につける魔法だそうだ。
だいたいのRPGでは<地>や<風>あたりは味噌っカスと相場が決まってるので最後に回したのだけど、正直なところ<火>も<水>も、ゲームやアニメみたいに使い勝手はよくなかった。
ていうか、なんかこう自分が魔法を使ってるっていうよりはスイッチを押すと勝手に魔法が飛び出すような感じすらある。
変にお手軽すぎて気持ち悪い。
やっぱりメリッサが見せてくれた、『源理』を組み合わせるとかいう次の段階に期待をかけるしかないのだろうか。
それって、初等学院を卒業してから習うって話なのよねー。
正直、そんな悠長に待ってなんかいられない。
だいたい私は『勇者』に立ち向かうため少しでも強くなる必要があるのだ。
そのためには一日だって無駄にはできない。
というわけで、残る<風>の魔法を試してみよう。
「“エウディア”」
頭に浮かんだ呪文を唱えるとかざした手の先に風が渦巻く。
最初に使った時よりも心持ち大きな魔力を込めてみた。
今回はつむじ風というよりは渦巻く風を球体に圧縮するようなイメージだ。
それを<火>や<水>の時のように撃ち出す。
風の弾は撃ち出された直後は形を保っていたが的に命中するずっと手前でほどけるように消えてしまった。
やっぱり……この<風>の魔法はぜんぜん反動がない。その代わりに威力はからっきしだけど。
うーん、もうちょっと魔力を注ぎこんだら変わるかな?
「もうちょっときあいをいれて……"エウディア"!」
今度は、一点に集中させるのではなく広範囲に風を巻き起こすようなイメージだ。
ちょっとした台風くらいの強い風が巻き起こる。
身体を斜めにしていないと後ろに倒れてしまいそうなくらいの風圧。これなら相手を転ばせたり足止めや何かに使えそうだ。うん、悪くないかも。
<火>の魔法は威力は十分だけど反動も大きいし扱いづらい。それにいざ本物の戦いになればそれだけじゃ勝てないだろう。この風の魔法はその辺の不足を埋め合わせをしてくれるかもしれない。要研究だ。
というわけで<風>の魔法で何ができるかいろいろ試してみた。
まずはゲームやアニメだとよくある“風で斬る”ってやつだ。
結論から言うと、無理だった。
そういえばいわゆる『かまいたち現象』ってやつも、真空や気圧のせいだって説は今じゃ否定されてるって聞いたことがある。
それに、なんていうかこの<風>の魔法、ちょっと思っていたのと違う気がする。
言葉にするのが難しいけど風を起こすというより空気を動かしているような……?
それのどこが違うねんと言われると私も困るんだけど。これも要研究だわ。
最後に私はどこまで風を強くできるか試してみることにした。
「“エウディア”!」
呪文を唱えると、私の身体からずずっと魔力が抜けていく感覚がある。
実際には身体から抜けた魔力は消えてなくなるわけではなくて、見えないもう一対の"手"になるイメージだ。
その"手"が普通なら触ることのできない"世界の隙間"に干渉することで、魔法という現象を起こす。
今のこれを例えるなら魔力の手で持って空気を集めてかき回しているような感覚だろうか。
最初、小さなつむじ風程度だったものはだんだんと渦を巻き、竜巻のようになっていく。
おー、これけっこう面白いわ。
勢いがつくほどに安定して、あとはほんの少し力を加え続けるだけで維持できるようになっていく。
ここからさらに回転を強めることもできるし、別の方向の力を加えれば竜巻自体を動かして相手にぶつけることもできそうだ。
「あ、あの、アリステル様、これ大丈夫なんですか……?」
「へ?」
気づけば、竜巻はとんでもない大きさになっていた。
「ぎゃー! どうしよう!」
「アリステルさま! 止めてください!」
「むりむり! とめかたとかわかんないもん!」
私が作った竜巻は今では城の屋根にまで届きそうな大きさになっていた。
落ち葉を巻き上げ、ニコラスのおじいちゃんが丹精込めて剪定した葉っぱを無残に散らしていく。
やばい。マジでやばい。
お父さまに叱られるのはまだいいとして、大事に育てた庭を台無しにされてもなお悲しみを押し隠しながら「姫様にお怪我がなくてよかった」なんて、ニコラスのおじいちゃんに言われたら罪悪感でのたうちまわってしまう。
なんとしてでも止めないと!
「ええと、ぎゃくかいてんのかぜでうちけす……いや、それじゃこうりつわるいか……」
自分がいろいろ試しながらこの竜巻を作った時のことを思い返してみよう。
風を回転させて、途中で中心に向けて絞るように力を加えたら一気に勢いが増したように思う。
つまりその逆のことをすれば勢いが衰えるのではないだろうか。
「アリステルさま! はやくなんとかしないと!」
「わかってるわよ! えーい、とにかくやってみるっきゃない……!」
狙うは竜巻の中心。渦に逆らうんじゃなくて外に広げて散らすイメージ。
「“エウディア”!」
私が呪文を唱えると竜巻がぐっと横に大きくなった。
「アリステル様! おっきくしてどうするんですか!?」
「これでいいのよ!」
一時的に大きくなったように見えた竜巻だけど、みるみる勢いが衰えていく。
私はさら押し広げるように風に力を加える。
竜巻はつむじ風に、そしてついには庭を通り過ぎる突風になって霧散していった。
「やった! 竜巻が消えました!」
ニコラスがはしゃいだ声をあげる。
いやー、こんなに上手くいくとは思わなかった。我ながらビックリだわ。
「ふ、ふふーん、どうよ。わたしってばすごいのよ」
「はい! アリステルさまはすごいです!」
ニコラスの屈託のない笑顔が眩しい。尻尾なんかぶんぶん降っちゃって、心の底から私のことを尊敬しているようなキラキラの目で見つめてくる。
これは……悪い気はしない。ていうかもっと褒めて褒めて。
「おーほほほほっ! いいわよにこらす! もっとわたしをたたえなさい! そしてあがめるのよ!」
「ありすてるさますごい! さいきょーです!」
「おーほほほほほほっ!」
調子にのって高笑いする私。これ、けっこうクセになりそう。
「アリステル、何をしている」
背中にゾクリと寒気が走った。
ぎぎぎぎっと音がしそうなくらいゆっくりと振り返ると、そこには静かに怒りをたたえたお父さまの顔があった。
「庭が大変なことになっていると聞いて来てみれば、これはそなたの仕業か?」
「お、おとうさまちがうのよこれはそのちょっとしっぱいしたっていうか……いきおいあまったっていうか……」
オロオロと弁明する私。と、よく見ればお父さまの後ろにはニコラスのおじいちゃんまでいるではないか。
ああ……あの悲しそうな顔。丹精込めて手入れした庭がこんなになってショックに違いない。
「アリステル!」
「ひゃい!」
「そなたに魔法を習うことは許可したが、庭をメチャクチャにしていいとは言っておらんぞ! だいたい、魔法を練習する時は大人の前でやるように言っておいたであろう!」
「ごめんなさいいいいいっ!」
珍しく激おこなお父さまに私はすっかり萎縮してしまう。
だけどその時……。
「陛下、どうかそのくらいで許して差し上げてください」
「トーマス……しかしせっかくそなたが手入れした庭がこんな有様に……」
「よいのです。草木はまた育てればいい。それより姫様にお怪我がなくてよかった」
そう言って、穏やかに微笑むトーマスおじいちゃん。
「にゃああああああああ! ごめんなさいいいいいいいい!」
私は罪悪感でしばらく庭をのたうちまわった。
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