呪われた橋

空野宇夜

古びた吊り橋

「ふ〜。綺麗だなあここは」


辺り一面の花畑。僕はここに立っている。花に見惚れてつい時間を取られてしまった。


「帰るか」


そう思い、僕は来た道を戻った。そして僕はまた、あの橋を目の前にした。


木造の古めかしい吊り橋。人一人がやっと通れる幅。見た目も相まって定員一人という字には説得力を感じざるを得なかった。それに、この橋は呪われているらしい。ハイキング仲間の友人曰く、


・この山で遭難し、救助された人間の多くは呪われた橋について言及している


・遭難した人間が言うにその橋の真ん中にはボロ布を纏った老人が立っていてずっと下を眺めているらしい


・彼らが共通して言うこの橋が気味悪いと言われ、いつしか呪われた橋と呼ばれるようになった


・ボロ布を纏った老人を地元の老人達は『山神様』だと言っている


・この現象を地元の老人達は『山神様の幻』と呼んでいる


ということだった。


よく見ればまだ、老人が橋の上に立っている。行きの時もそうだった。でも、僕の意識は地続きだ。ここは現実だ、そうに違いない。そう思いながら僕は橋を渡り始めた。


しかし、ただの老人を神だと言っている人はどうしてそんな見解に至ったのだろう。この地に山岳信仰が昔からあるのは知っているが、それとこれとじゃ少しワケが違うと思った。


「爺さん、失礼」


だってほら、こんな風に触れるし。それともこの人はただの人間で『山神様』と言うのがあだ名という可能性だってある。まあいいさ。


一歩を踏み出すごとに木の板は軋んだ。風に煽られ揺れもした。だが、なんとか無事にこの吊り橋を渡ることができた。その時、倒れる程ではなかったものの、目の前が見えなくなるくらいの立ちくらみに襲われた。僕の五感が一瞬鈍った。


「おーい。誰かいるかー」


誰かが誰かのことを探しているようだった。その足音はだんだんと僕の方へ近寄ってきた。すると、目の前の低木をかき分けて老いた男と若い男が現れた。若い男の方は橋のことを教えてくれたハイキング仲間だった。


「お前、探したんだぞ」


「え?僕は別に遭難してないよ」


僕がそう言うと彼は困った顔をした。すると、そして老人が口を開いた。


「お前さん、あの橋を渡ったのかね?」


「はい、そうですけど」


「山神様も見たのかね?」


「はい、見ましたよ」


「ほお、これはまた……。お前さん、まだ気づいてないようじゃが、後ろを見てはくれんかね」


「……あれ?」


回れ右をし、後ろを見ると、橋は崩れた後だった。

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呪われた橋 空野宇夜 @Eight-horns

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