Act17 シーン1 スタジオにて
CMの撮影日、撮影スタッフが慌ただしく動くスタジオで、フローレンのマネージャーの笹本と美加島のマネージャーの谷岡が彼達を待っていた。
「すいません、まだ到着してなくて!」
笹本が真っ青な顔で頭をペコペコと何回もCMディレクターの原野に下げていた。
「困りますよ! ペッパーダイン製薬さん2億円払うんですよ! フローレンに2億円! 破格ですよ! このCMに! いくら突然のオファーにしても、マネージャーちゃんと把握してもらわないと! スポンサーさんもう来てるんだから!」
原野は、謝っている笹本に文句を言うだけでは気がおさまらず、隣で、同じようにコメ付きバッタしている谷岡にも、「あと!美加島さんとこの事務所にも1億!」と人差し指で1の数字を見せつけた。
「すいません。美加島、もう到着すると思いますので!」
谷岡が、今まで以上に頭を下げて縮(ちぢ)こまってるところに不動社長が現れた。
「いやいや構いませんよ! 我々のオファーが通ったのが夜中でしたから! な!」
不動は満面の笑みで隣の健一郎と川上に同意を求めた。
「はい!」
「社長ぅ! 良かったですね、全部無事にかたずいてぇ!」
「そうだな!」
不動は満足そうにうなづきながら腕時計をチラッと見た。 実は、聡から既に連絡をもらっており全員があと数分で到着するのはわかっていた。
そこへ予定通り、ミーナ・ララ・サキの三人が大慌(おおあわ)てで駆(か)け込んできて、その後から、聡と孝雄がキョロキョロ見回しながらついてきた。
「すみません! 遅れました!」
フローレンの三人は、入ってくるなり笹本マネージャーに頭を下げた。
「おそいわよー、何よ?あんた達の格好、よれよれじゃない? パーティかなんかしたの昨日? 寝てないの? あれ? 誰この2人?」
笹本は立て続けに質問を重ねた。
「この2人はミーナの友達です!」
サキが説明すると、「友達?」と笹本が怪しむ目で二人を見つめた。
聡と孝雄が「助けて」の目線を送ると、
「お! 聡、孝雄君ご苦労さん!」
健一郎がそう言うことで、二人がスポンサー関係者であると言うことをアピールしてくれた。
「おー、君達よく頑張ってくれた!」
「あ、すいませんお知り合いですか?」
大広告主である不動がやってくると、と笹本はまたペコペコし始めた。
「はい!すいません、息子とその友達なんですけど、「どうしても見学したい」って、言ってたものですから!」
「あー、もちろん大丈夫ですよ!」
ディレクターの原野は、セットの向こうから健一郎の話を聞いていて、大きな声で見学を許可するとコマーシャルの指示を出し始めた。
「うーん、まだスタジオ照明もカメラも何もセットできてないね、メイクの前にここで コマーシャルの段取り説明しますから! 美加島さんまだかな?」
美加島は同時にスタジオに入ると不自然なので、入り時間をずらしているのだが、それを知らないマネージャ―谷岡は、「すいません。もう一回電話します」とスマホを握りしめスタジオの」端っこに向かって走って行った。
やがて、スタジオにはフローレンの曲がBGMとして流され始め、原野がフローレンに説明を始めた。
「ここで! 咳(せ)き喉(のど)風邪にペッパーダインAって言ってもらえます!」
熱心な説明を聞きながら三人は、専属スタックからメイクや衣装を手直しされている。
そして、リハが始まろうかしてると時、美加島がスタジオに入ってきた。その瞬間スタッフの誰もが喋らなくなってしまった。
なぜなら、谷岡マネージャーが肩をかしているイケ面俳優は、顔に痛々しく湿布(しっぷ)を貼り足を引きずりながらやってきたからだった。
谷岡は前にも増して真っ白な顔、かつ涙目で怒り狂った原野の説教を受け始めた。美加島は、湿布で顔が隠され表情が見えなかった。そんな最悪の状況を打ち破ったのが不動だった。
「そんなの構わない! 金は払う! 問題は無い!」と、必死でマネージャーの二人を庇(かば)っていた。そんな騒々しい光景を、スタジオの端っこに腰掛けていた聡と孝雄は笑って見つめていた。
「で、いつ変わったんだ? 美加島さんと!」
あの佐藤結花の襲撃(しゅうげき)の後、パーティは混乱を極めた。
ララが泣きながら、「孝雄」の手当をしていたので、どのチャンスで入れ替わったのかが、聡にはっきりしていなかった。
「深夜2時かな? 美加島の野郎! 痛いのが恐くてしばらく逃げてたんだぜ! 鎮痛剤が手に入ってやっと握手したんだ! あいつ!」
孝雄は口をとがらせながら文句を言った。
「お前が頼んだんだろ! パーティが終るまでって」
口調はキツかったが、聡的には慰さめてるつもりだった。
「普通は教えるよな! まさか別れてなかったなんて!」
孝雄の苦情は尽きそうになかった。
「いやー、あの状況じゃねぇ! 俺だって教えないよ」
「教えるよ!」
孝雄が本当に悔しそうにさけんだので、これ以上言うのは可哀想だと思い、仕方なく同情することにした。
「芸能人ってさ! 恐い生き物だよな!」
「そうかもしれない!」
孝雄は、あたかも芸能人経験者らしく深くうなずきながら同意した。
「で! ララちゃんはどうするんだ! 付き合うのか? 美加島さんと!」
この質問を今、孝雄にするのは残酷かも知れないと思ったが? やはり気になった。自然と二人の目線はCM撮影中の美加島とララの方に移っていった。
「見ろよあれ! 絶対付き合うよ! 心配そうにみてるじゃん!」
殴られた跡をメイクで隠し、無理矢理爽(さわ)やかな笑顔を作って演技をする美加島を、ララが恋する目で心配そうに見つめているのが確認できた。
「まあ、そんなに落ち込むなよ! お前には俺がいるじゃあないか!」
聡は、失恋の孝雄を励ますべく温かく声をかけた。半分冗談のつもりだったのだが、昨日は色々あったのでなんか胸が熱くなってきてしまい。それが照れ臭くて孝雄には絶対にバレたくなかった。孝雄も聡とあまり変わらない気持ちで照れくさいのか? 目線をそのまま遠くに向けたまま、「うん」と力強くうなづいた。 二人はそのままフローレンの曲を聴きながら、ボーッと撮影を眺めていた。すると、ミーナが彼らの視線に気づき聡に手を振った。
孝雄の驚きと羨(うらや)みの眼差しの中、聡が顔を真っ赤にして小さく手を振り返すと、ミーナはスマホを持つジェスチャーの後、ゆっくりと口パクでメッセージを送った。
それはとても分かりやすく、明らかに聡、そして孝雄にも理解できた。
「で・・・ん・・・わ・・・し・・て・・ね」
「電・話・し・て・ね」
孝雄はそれを無意識に一語づつ声に出した。そしてだんだん言ってる意味がわかり始めると聡を見つめた。
「あ〜 てめえ! 自分だけ幸せになりやがって、この野郎!」
叫んだ瞬間、聡は勢いよく逃げ出して、それを孝雄は悔しそうに追いかけ始めた。
逃げる聡を、必死で追いかける孝雄! 聡はなかなか捕まらない!
誰もいないスタジオの廊下を嫉妬に狂い全力で追いかけてるハズだったが、
なぜか孝雄の顔は喜びでにやけはじめた。
それは間抜けな中二病達がじゃれあってる様にしか見えなかった。
終わり
フローエン フローレン 村青 雨京 @murao-ukyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます