Act13 シーン1 ミーナの部屋でミーナ対「美加島」

ミーナはマンションの部屋に戻り幸せをかみしめていた。

「は~、やったわ! やっと私はこの身体を取り戻せたの! ほんと一時はどうなるかと思った」

そのような独り言を繰り返し勝利の充実感を噛(か)みしめた。さっきの握手で、憎(にく)き孝雄から身体を取り戻した時の衝撃が今となっては懐かしも思えた。そこにララが、ミネラルウォーターを片手に持って来てくれた。 何も知らないララは心配なのだ。

「ねえ! なに独りごと言ってるの? 大丈夫? さっきの人達は一体何者なの? マネージャーに連絡して警察に電話してもらう?」

「ううん、大丈夫よ」

ララの想像では、すごい犯罪集団に、よって誘拐未遂でもされた! と思い込んでいるようだ。

「ごめん。喋っちゃいけないの」

ミーナはわざとシリアスな顔をして言ってみた。

「喋っちゃいけないの?」

「そう! 喋ったら恐ろしいことになるって、、、 言ってた」

「そうなんだ。そんなにヤバイ人達なんだ」

ララの表情が曇った。そしてその表情が、ミーナには滑稽(こっけい)でたまらなかった。

「そうすごくやばい人達なの、今思えば!」

ミーナはとうとう笑い出した。

「だから誰よ?」

「駄目、秘密! ごめん、これ以上は私言えないの! 国家機密だから!」 

「何なのよ、いったい!」

ララは、よく分からないからかわれ方をされて、ムッとした顔をした。

「まあいいじゃない! それより私のこと教えてよ。私、変じゃなかった?」

ミーナは、ララの機嫌をなおす為に急いで話を変えた。

「う~ん、確かに、、、結構変だったよ」

「やっぱりそう! 例えば?」

「例えば?」

「そう、例えばよ、、、そうね、例えば、自分で自分のおっぱい触るとか?」

 とにかく、あの能天気・変態おめでた野郎の孝雄のやったことが、心配かつ不快だった。

「は? いやそんなことは無かったと思うけど」

「ほんとに」

ミーナはララの言葉で少しだけ安心したが、ここは、しっかり確認した方が良いと思った。するとララは首を少し傾けながら何か思い出した。

「ただ?」

「ただトイレに何回も行ってた」

「なるほどぉ!」

聞いた瞬間カチンときた。ただ、ララに文句を言う訳にはいかなかった。

「あいつトイレでいろいろやりやがったな! 今度あったらぶん殴ってやりたいわ!」

ミーナは呪文のようにブツブツつぶやき始めた。ララはそんなミーナの奇行(きこう)のせいで心配するのをやめた。

「そういえば、、、。 どうなった! 美加島さんと?」

そうなるとミーナは、応援しているララの恋の行方が気になった。 

「だって、ミーナは反対してるんでしょ」

聞いた瞬間、ララはすごく不機嫌そうな顔を向けた。

「は?」

「というかひどいわ、あんだけ協力しといていきなり反対しだすなんて?」

「私が?ふーん私がね! ごめんね、なんか記憶がおかしくなったみたいでー」

ララの言葉を受けて孝雄が何をしたのか大体想像できた。すると、突然ララの携帯電話がなった。

「あっ 美加島さんからだ、どうしよう! ちょっとごめんね!」

ララは嬉しそうな顔で部屋の向こうに走って行くと、ミーナは再度ブツブツ言い続けながら、コンパクトから鏡を取り出して自分の顔を確認し始めた。

「くそー、あいつこんな下手くそなメイクしやがって信じられないわ、なんでブラがこんなにずれてるのよ、あいつ本当に変なことしてないわよね、私の身体に、、、クソ 孝雄め!」

と、負のオーラが溜まってきたところに幸福のオーラいっぱいのララが戻ってきた。

「また独り言?」

「ううん、で、美加島さんはなんて?」

「会いたいんだって!」

「良かったね!」 

「本当に? 喜んでくれる?」

ララは疑いの目をミーナに向けた。

「前のことは忘れて! 本当にうれしいから!」

ミーナは、必要以上に、交際を支持している!ことを、強調しなければいけなくなった。

「じゃあ。またこの部屋でデートしてもいい? いつもで悪いんだけど、、、 あのー、マスコミに見つかると恐(こわ)いんで、、、あ、でも、体調が悪かったよね?」

ララは、明らかに部屋を借りたいのだが、精一杯遠慮しているので会話がおかしくなった。 

「いいよ、体調はもう全く問題ないから! ほら!」

「本当に?良かった」

ララは嬉しそうな顔でピョンと跳ねて喜ぶと、いきなり手を合掌(がっしょう)させて、「で、ごめん、もうすぐそこに来てるみたい! なぜか、ココの場所また聞かれちゃって」

ミーナとって、ララのお願いは唐突すぎるのだが孝雄のヤラカシのせいで断ることはできない。そしてはやくも、インターコムが鳴り出した。

「あ、来た」

ララは走りながらインターコムの前に行って、さっさとエントランスの鍵を解除した。

ミーナは疲れていたが、こういう状況に陥(おちいっ)った以上、どこで時間をつぶすのか? と焦っていたらドア音が響いた。

「美加島さん! ありがとう来てくれて!」 

「ララちゃんの為ならなんだってするさ、はい、これ二人で食べよ!」

「わぁ! ありがとう! 好きなんですー。ここの!」

廊下でカップルならではの楽しそうな話し声が聞こえた。

ミーナは、いつもクールな「美加島」が、ララと二人きりになると性格が変わって、はしゃいでしまうのだな、と微笑んだ。

(ご存知のように、ミーナは美加島の中身が孝雄だということがまだ分かっていない。そして「孝雄」はミーナの中身は美加島だと思っている)

そして、見かけがイケメン俳優の孝雄は有頂天(うちょうてん)でリビングに入ってきた。

「うわっ! いたんだ」

「いたんだって! ここ私のマンションなんだけど!」

「孝雄」は、入ってくるなり「ミーナの中の美加島?」の存在を嫌(いや)がり、ミーナは訳がわからず唖然(あぜん)とした。

「だめですよ、折角ミーナが私達の為に部屋貸してくれるんだから」

流石(さすが)にララは焦ってフォローを入れた。

「あー、ごめんごめん そーだったね」

「孝雄」はニコリと微笑み、ようやく美加島らしく振舞った。

「あ、じゃあ私ちょっと出ていくね、帰ってくるの遅いから、ごゆっくりどーぞ」

とにかくミーナとしては早く出て行きたかった。 二人の邪魔をして疎(うと)まがられるのは勘弁(かんべん)して欲しかった。 それに美加島とは何か話しづらい気配を感じた。

「えー、ちょっと待って、ケーキくらい食べていってよ」

ララは美加島のことを自慢したいのか? それともミーナを追い出すことが気の毒なのか? どちらかは分からない? 

「あら、でもお邪魔じゃないかしら!」

ミーナが「孝雄」の方を何気(なにげ)なく見たら、長い腕を外へ向けて「出ていけ」というジェスチャーを見せた。 ミーナがすごい顔をしているので、ララが驚いて、その視線の先の「孝雄」を見ると、彼のジェスチャーが直(ただ)ちに止まり、顔は意地悪な顔から優しい顔に変化する。

「いいわよね、美加島さん! ケーキくらい食べていってよ!」

ララが促(うなが)すと、「孝雄」はにこやかな顔でうなずきながら、ミーナが一緒にケーキを食べることに同意した。

「うん、じゃあ分かった」

ミーナは混乱しながらも了承すると、ララは喜んで、「じゃあ。コーヒーいれてくる」とキッチンへかけていった。 


そして、ミーナと、外見が美加島の孝雄は二人きりになった。

ミーナは、彼が何かが怒っているようなので慎重に話しかけた。

「美加島さん。ごめんね! お邪魔しちゃって!」

「やっぱり演技が上手いな。大丈夫だよ! 早くでていってくれれば!」

「孝雄」は冷たく言い放った

「え?」

本当に「え?」だった。

先程の失礼な態度は思い違いではなく、この男はミーナに対して、かなり怒っているようだった。

「どーだ?」「孝雄」は、まだ気持ちの整理の付いていないミーナに、畳(たた)みかけるようにぶっきらぼうな質問をした

「どーだって? 私に言ってるの?」

ミーナはもう、混乱するしかなかった。

「お前に言わなくて誰に言う?」と「孝雄」は鋭くニラんできた。

「どーだって? 普通ですけど?」

ミーナも段々イライラしてきた。そもそも、なぜこの俳優に、ここまでケンカを売られなければいけないのかも分からなかった。

「普通? そうか、割り切ってくれたんだな」

「あー私、反対なんか全くしてませんでしたよ。お二人のこと、ちょっと前にあったことは一時的なことで、、、」

ここでミーナは美加島が怒っている理由は、孝雄がミーナの身体に入っている間に、ララとの交際を大反対したことを聞いて根に持っていると確信し誤解を解きにいった。

「おまえ、おれのこと理解してくれるの?」

案の定、「孝雄」の反応は激変した。

「当たり前でしょ。さっきから言ってるじゃない」

「ありがとう。なんていい奴なんだ。お前は!」 

「そんな大げさな、大丈夫ですよ! 美加島さん」

「ありがとう!」

「孝雄」は喜びで思わず手を大きく差し伸べた。長い手を目の前に差し出されて、ミーナも思わず手が出そうになると、それを見た「孝雄」がいきなり手を引っ込めた。

「なるほど。こういうことか! やっぱりお前は役者だな」

「孝雄」は、この一連の成り行きをミーナの中に入った美加島のワナと認識した。

一方で、ミーナもまだ握手をすることは禁じられていたことを思い出した。

「コーヒーインスタントでいいよね」

「孝雄」が怒りの言葉を発した時、ララがトレイを持って入って来た。

「うん、ありがとうララちゃん」

「孝雄」はびっくりするくらいのいい顔でララを迎(むか)えた。ミーナは美加島の二面性に嫌気がさして、一刻も早く立ち去りたくなった。

「あの、ララやっぱ私、用事思い出したんでケーキいいわ」

「えー?」

ララは当然びっくりした顔になったが、「ごめん急ぐの!」とドアの方に向かうと、 ララは、急いであとをつけてきた。

「良くわかんないけど、美加島さん今日機嫌悪いみたいね」

「え? そんな風にはみえないけど」

ララは当然不思議そうな顔だ。

「まあ私がいると邪魔だから! じゃあね」

ミーナはもっと不満を言いたい気分だったが、ドアを閉めてマンションを飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る