Act11 シーン1 ミーナのマンションにて!

都内高級マンションのミーナの家の前、ミーナの姿をした美加島はララと一緒にいた。ララは気分が悪そうと心配してついて来てくれたのだ。

「本当に大丈夫? 今日は元気無かったから」

「うん、大丈夫よ、ありがとう! ごめんね」

ララからの声かけに、美加島は女の子っぽい柔らかい口調で返した。

「いつもお世話になってるから、特に美加島さんの件で」

ララはニコリと微笑むが、その美加島は実は俺なんだよ! と、ララちゃんに伝えたかったのだが信じてもらえないと思った。

「あー、美加島さんね」

とりあえず返事だけして財布を開けた。 

アイドルに変えられた美加島は、ミーナがカード型の鍵を使っていたのを知っていた。以前、ララが部屋を借りた時に、ドアを開けている隣にいたので覚えていた。ただ、ミーナが財布のどこに鍵を入れているのかがわからなかった。

「どれだったかな? 鍵」

「これよこれ! もう?」

ララは財布の中からカードキーをサッと抜き取って渡してくれた。

「あ、そうだったっけ?」

「握手会の後から変よね? 疲てるんじゃない? 私泊まっていこうか?」

ララが心配して言ってくれてるのは分かるのだが、正直なところ、今、どう彼女と接すればいいのかわからなかった。

「いや、それはうれしいんだけど、でも―――」

「よーし決定! じゃあタクシーに言ってくるね。中で待ってて!」

ララは「美加島」の言葉を遮って、表で待つタクシーにお金を払いにエレベーターへダッシュしていった。 

『でも今日は!』と断ろうとしていたのに、その前の部分で早とちりされてしまった。呼び止めて断ればよかったのだが、もう大声で呼び止める気になれなかった。それに、ひょっとしたら、ミーナに取り憑(つ)いていた、奇妙(きみょう)な男の正体を探る手がかりになるかもしれないと思いはじめた。

「美加島」は部屋のカードキーをスロットに入れてドアをあけようとしていた。その時、大学生くらいの男二人が彼の後ろを静かに通り抜けて行った。ただ、その二人は突然Uターンして、「美加島」を両側から囲んだ。 

それは聡と外見が孝雄の「ミーナ」だったが外見がミーナの「美加島」は知る由(よし)もなかった。聡は突然、「美加島」を後ろから羽交い締めにして、「ミーナ」が前から「美加島」の両手を掴(つか)んだ。 「美加島」はさっきの経験から、また何か変なことが起こるのが予想できた。多少抵抗しようとはしたが、身体がミーナなので、力負けしてしまって腕を振り解(ほど)くことができなかった。何かされそうで顔を背けていると、男二人組は「美加島」に大胆(だいたん)に喋りかけた。

「お前! いいかげんにしろよ!」

「そーよ、なんで電話とらないのよ」

二人は男なのだが、一人は女のような喋り方をしてきた。

「誰だ?」 

「とぼけるなよお前! 大変だったんだからな」

「本当に分からないんだ。誰だよあんた達は」

「おまえなぁ、後から説教だからな! さ、早くしろ!」

見た目がアイドルの美加島は叫んだが、普通の喋りの男は、友達のような喋り方で背後から宥(なだ)めてきた。

「さ、ミーナちゃん」

そして、その男は、ミーナとは似ても似つかぬさえない男を、ミーナと呼んだ。

「さ! いくわよ!」

そしてその女喋(おんなしゃべ)りの男「ミーナ」は、ハアハアと深呼吸しながら近づいてきた。     

「ちょっと待ってよ、何で握手するんだ? いやだよ! やめろ」

「美加島」はその男を睨みつけバタバタと抵抗した。

「孝雄、もういいだろ! 十分楽しかったんだろ、ほら!」

後ろの男が、ミーナ姿の自分を孝雄と呼び始め、ミーナと呼ばれる男が執拗(しつよう)に手を握りはじめた。

「やめろよ! 触るな!」

「ミーナちゃんしっかり握って! 孝雄、目を見ろ! 目を!」 

「美加島」は奇妙な悪夢から逃げれなかった。


全てが解決し聡達は安堵したのだが、不運なことにララが、タクシーの用を済ませ帰ってきた。

「何してるのあんた達! ミーナ! 大丈夫、今! 警察呼ぶ!」

 ララは、強い視線で挑(いど)んできたので、二人はすぐには動けなかった

「信じてないのね! 非常ベルも押すわよ。あんた今ミーナに暴行したでしょ?」   

「よし、これでOKだ! すべて終わりだ行こう!」

聡はララの問いかけに答える必要はなかったのでもう一人の男に声をかけた。

「あんた達ちょっと待ちなさいよ」

ララはスマホを片手に追いかけようとしたが、聡は、茫然(ぼうぜん)とした男を引っ張るようにして逃げて行った。  

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