Act7 シーン1 公園にて 

突然家を飛び出した聡とミーナだったが、行くべき場所は見つからず、二人の足は聡の家の近くの公園で止まっていた。 結局、公園のベンチに座る聡と「ミーナ」だった。

「どうしたらいいと思う」

「うん」

聡は何も考え付かず心のない返事をさっきから繰り返していた。 外見は孝雄だが乙女のミーナが中に入っているので、いつもの能天気な親友とは違った空気感を出してくるので戸惑ってしまうのだ。

「なんかいいアイディアないの?」

ミーナは絶望感からか、同じような質問をさっきから繰り返す。

「アイディアね」 

「ないんだー」 

「いや、俺、思うんだけどさ、やっぱさ、親父達に頼ったほうが、、、」

まだ喋(しゃべ)っているのに、ミーナの視線が刺すような鋭さを見せるので、それ以上喋れなくなった。

「サイテー」

案の定、ミーナは怒り出した。

「いや」

同じDNAだからなのか、さっきの親父と一緒で、これ以上の言葉が出てこない。

「出て行くときに言ったよね、俺も大人達が信じられないって」

「確かにいったけどさ!」

「確かに言ったんじゃない」

憧れのミーナがヤケクソになっていた。

「言ったけどさ!」

「じゃあ考えてよ」 

「分かったよ! でもミーナちゃんも考えてよ」

こういうことを言うと、ミーナが不機嫌になるのはなんとなく予測できたので、なるべく穏やかに反論したつもりなのだが、彼女の怒りは簡単におさまらなかった。

「あなた私のファンなんでしょ! ファンならもっと真剣に考えてよ! 分かった?」

「分かったよ!」

聡は、そう言うしかなかった。

「じゃあお願いねー」

ミーナはそういうと、聡に背を向けた。

「あのさ!はっきり言うね」

「何?」

「あそこまで自分が言ってでていったのにさ? 結局全部俺に頼るんだ」

聡の心の中の声が『やめろ!』と言っていたのに何故か言ってしまった。

多分外見が孝雄だからなんとか言えたのかも知れなかった。

「は?」

ミーナは硬直した。

「だってそうでしょ。あんたはずっと泣いてるばっかりで、自分の問題の解決方法を自分

で考えようとしない!」

「あら、よく言うわね」

「ああ、言うよ!」

もう引き下がれなくなった。

「じゃあ言わせてもらうけど、元はといえば、あなたのお父さんの無茶苦茶な研究のせいで私こんなになったんじゃあなかったっけ?」

「確かに俺の親父のせいだけど! 俺が言いたいのは、あんたは何もしようとしないで文句をいってるばかりだってこと!」

「あのね、私の今の状況わかってるの? 私戻る保証がないのよ。私はアイドルだったの!

そしてこのまま生きていかなきゃいけないかもしれないの!」

 聡は完全に言い返せなくなってしまった。

謝りたくなってきたところだったが、ミーナの不満はまだおさまっていなかった。

「あんたは私が男の顔をしてなかったらこんなに私に怒っていなかったわ! 

私分かるの!なんで分かるか分かる? なぜなら私は昔かわいかったから!

笑いたかったら笑いなさいよ。 携帯でもなんでも使ってみんなにいいふらしなさいよ。フローレンのミーナは性格悪いって!」

言い終わるとミーナは聡に詰め寄り「早く! 携帯だせよ!」と叫んだ。

あまりの剣幕に聡がびっくりして携帯を出さないと、「ミーナ」は、孝雄のズボンのポケットから携帯をとりだした。

「ほらあんたの友達のがここにあるわよ! 誰でもいいから電話しなさいよ! 早く! フローレンのミーナは不細工な男に生まれ変わりましたーって! ほら! ほら!」

 電話を無理矢理渡されて、聡はようやくやるべきことに気づいた。

「かけようか? というかかけようよ! なんですぐに気付かなかったんだ」

「は?」

ヤケクソのミーナは聡の予想外の反応に硬直した。

「ミーナちゃんだよ! ミーナちゃんの携帯に電話して孝雄を呼び出せばいいんだよ。きっとあいつもびっくりしてパニックになってるよ! 電話しよ! 

いますぐ!」

 

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